第5話



ネタバレ:遊戯が二心ニ体になる
「ネタバレなんてひどいぜ!」


耳苦しい音を響かす時計を叩き大きく欠伸をする少年。本日の天候は晴れ。彼にとって何の変哲もなく、人生で見分けのつかぬ日の朝だ。 居住区の桜木々はすっかりシンプルになり、枝先に緑が浮かび始めていた。 

「ふぁ…… おはよう、相棒…zZZZ」
「おはよう、もう一人の僕。邪魔だからどいて」

数え切れない量のシルバーを抱いて寐る人間もまた少年。一体何所からかき集めてきたのだろうか。 その少年を寝台から蹴落とし少年は自室を出た。階段を降り終えた後、一瞬立ち尽す。そして眠たげな顔からカッと意識を覚醒させた。血相を変え自分の部屋戻り地面にキスしている少年を見下ろす。

「な、なにこれ!?」

可笑しい点に気がついたのだろう。

「もう一人の僕が シャベッタアアアアアアアアアア」
「お、落ち着け相棒。精神体の時でも俺は喋ってたぜ!」

室内には武藤遊戯の身体が二つあるのだ。器側の人格である表遊戯が在るならば、闇遊戯は精神体なのが常識である筈。だが今迄の法則が乱れ、シルバー中毒者の闇人格までもが実体化していた。

(どうかなされましたか、マスター……
!? 実体化のマスターが、お二人!?)
「朝起きたらこんなんなっちゃったんだよ!」

主の叫び声を聞き付けやって来たブラック・マジャンも、思わず呆気に囚われる。

「どうしようブラック・マジシャンー!」
「まぁいいんじゃないか、相棒」
「よくないよ!」

表遊戯は闇遊戯のどてっ腹に右ストレートを食らわしながらも不安を呟く。

「ダイレクトアタックが出来る…いいかも…。でも、このままじゃママから貰うお小遣い半分になっちゃうし部屋も二人で使う事になっちゃう……」
「そうなったとしても、相棒はお小遣いは分けてくれなそうだな」
「当然だよ!ボディがガラ空きだよ!」
「ぐっ、がは、ぶへ、デュクシ.......」

32chain Excellent。ひたすらノックする表遊戯を懸命に宥めるブラック・マジシャン。凄惨な姿となってしまった闇遊戯を、ホーリーエルフに頼み治癒魔法で処置して貰い無事復活させた。 
二人となった我が子を前に当然母親と叔父も吃驚する。だが明細など知ろうとせず、すんなりと鵜呑みにした。理解力があるのだかないのだか。
遊戯二人と魔法使い一人は解明出来ないこの事態に頭を悩ませた。しかし手がかり一つない以上致し方がない。最初から現在まで無頓着にいたのは、言わずもがな 闇遊戯であった。


「名前ッ呼んで驚かそうぜ!影分身の術って言って」
(ですが、名前ッ様にはこういったの怪奇現象は、見慣れているのではないでしょうか)
「日頃から薄く精神体の僕やらブラック・マジャンが見えていたって程だしね」
「でもなんで見えてたんだろうな。名前ッの特殊能力なのか?この出来事も名前ッのおかげなのか?」
「お前のチートドローじゃあるまいし、名前ッちゃんを変人っぽく言うのやめなよね」
「変とは思ってないぜ。何か理由があんじゃないかと思ってな……」
(確かに…)


   * * *


携帯で連絡を取り名前ッと直接話合う事になった。名前ッは快く誘いを受け入れた。ハンバーガー屋で待ち合わせとなり、先に到着した遊戯達は店内の奥側席に座り彼女を待つ。

「ヤッホー」
「よ!」
「やあ」
(こんにちは)
「わー!!ホントだホントだ、実体化してる!双子みたい」

遊戯達の予想通りあまり驚かずに見る名前ッ。其れ処か楽しそうに破顔していた。そんな彼女に「店内は静かにね」と助言する。興奮を抑えながら、遊戯達の向かい側に腰を掛けた。先に座っていたブラック・マジシャンは少しドキリと心打つ。目上の者と同席で良いのだろうかと呻吟する彼だが、何も言われないので身を止める事にした。

「へぇ、今朝から二人に…」
「うん。ホンットに参いるよ……。精神体ですら喧しくて敵わないのに」
「相棒、物は考えようだぜ!これは幸運だ。学校とか、俺とお前で一日交代に行けばラク出来るぞ!」
「君が学校云った場合、死活問題ばっかり起こすから嫌」
(それに不正しては成りません。学校とは学ぶ為に通う場所ですから)

融通が効かないメンバー達で闇遊戯は不貞腐れた。ストローで空気を吹きドリンクを泡立たせる。

「でもデュエルは二人とも同時に出来るから良かったんじゃない?今迄だと、どちらかが精神体でいなきゃならなかったしさ」
「ん〜まぁね。練習相手(サンドバック)が出来たと考えれば……」

いつ治るのかと懸念する自身に対して、何でも前向きに考える(と云うより垢抜けて居る)名前ッに表遊戯は関心した。




「……名前ッちゃんさ、いつから精霊とか見えていたの?」

アイスティーにミルクを流す名前ッに尋ねる。それには闇遊戯も、水にシロップを淹れて遊ぶ手を止め耳を傾けた。

「えーとねー、私が小学低学年の頃かな。友達がM&Wやってるのに魅かれて私もやり始めたの。その時に友達からいろんなカード貰ったなー…」

思い出に浸るように、天井を眺めて彼女は頷く。

「連れて行ってもらった大会とかでも時々見えてたよ。召喚されてないのにモンスターがデュエリストの隣にいたり」
「へぇ…」
「でもやっぱり口に出すと気味がられるけど」
「その力って、やっぱり何かの力なのかな?」
「たぶん。カードではない何かとか憑依してるんだと思う」

一般の人間であったら青ざめるのが妥当であるのに、息を吐くように軽々述べ洒脱として居た。だが落ち着いてる名前ッの前には、反比例するように拳を熱してゆく者の姿が。

「名前ッっ!俺たちがその現象を起こす謎を解いてやるぜ!Gちゃんの名にかけて!!」
「え、ちょ、闇遊戯くん?」
(マ、マスター 気を静…)
「落ち着いてられるか!」

闇遊戯が足をテーブルにのし上げ吠える。店内に響く声と荒ぶる姿は、客達の視線を一つ残らず集めた。 その場から逃げ去りたい気持ちを制する表遊戯は、奴の脛を手刀で弾き床に叩き落とした。

「足がぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「闇遊戯くん。折角だけど遠慮しとくよ」
「ぁぁぁ、ゑ?」
「私の身とかには負担は掛らないし、見るのは楽しいし。それに解決策が見つかって精霊達が見えなくなっちゃたら、ブラックマジシャン達と話せなくなるかもでしょ?」

そう言ってブラック・マジシャンに目配せをする。

(名前ッ様……)
「これでいいんだ、私は」
「名前ッ…!!全シルバーが泣いた」
「君がそう言うならいいんだけど……」

表遊戯はまだ少し憂悶している様子だった。そんな事より自分達の問題を気にしろ。
兎にも角にも、話が一段落した調度でメニューが運ばれて来た。満身創痍な闇遊戯は机にへばり付きながらポテトを口へ運ぶ。 名前ッも頼んだテリヤキバーカーを手にしたが、事を思い出したように動きを止め、眉を顰めた。

「でも、何ではっきり見えるようになったんだろう。それだけは気に止まるんだよね……。とくに目立った事してないのに」
(名前ッ様のカードにも精霊が宿り始めたのでは?)
「うーん。そうなのかなぁ…」

Q,主人公達が幼児の頃ってまだM&W出来てないよね?
A,私のおじいさんがくれた初めてこのカード。それはM&Wで私は四歳でした。そのカードは強くてカッコよくてこんな素晴らしいカードをもらえる私はきっと特別な存在なのだと感じました。今では私がおじいさん。孫にあげるのはもちろんM&Wのカード。なぜなら彼もまた特別な存在だからです。







  

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