第3話
文庫版遊戯王18巻 に載ってるあの海馬ランドです。「うわー…!すごい!」
名前ッ様の感嘆に同調する。『KAIBALAND』と記されている門口を潜ると、面前には青眼の究極竜、……型の拱廊が荘重と立ちはだかっていた。 聳えている建物はすべて大仰だ。そして至る所に、海馬瀬人の下部の竜のが像が祀る様に設けられている。素朴な疑問なのだが、これでは子供達が怖がるのでは?
「海馬ランド(笑)っつーより青眼ランドだよなー!」
「でも、海馬くんの凄さを改めて知らされるよ〜」
城之内様と表のマスターが言う。この場を築いた会社の総帥が十代の若者とは、未だに信じ難い。
「ちょっと3人共! 迷子ならないでよ?」
「うん!」
真崎様に注意されながらも、名前ッ様は口を丸く開けながら目を爛々と輝かせている。私はつい顔が綻んでしまう。
(相棒!俺もアトラクション乗りたいぜ!チェンジしてくれ!)
「いやだね」
(うわあああぁぉぁ…)
表マスターはパズルをもぎ取り、鞄へと沈めた。
※闇遊戯出番終了のお知らせ※
客受けが良いと云う乗物に乗じる為、長蛇の列に一同は紛られた。高速な列車絶えず走り回り人々の悲鳴が周囲に響く。この様な危ない乗物に何故乗りたがるのですかと憂慮して尋ねたが、マスターと名前ッ様は「スリルを味わう為に乗るんだよ」と答えた。
「……!」
乗り込む順番がやって来たその時、名前ッ様は目を見開き遠くを見据えた。
「どうしたの?名前ッちゃ…」
「ごめん! 私トイレ行ってくる!」
「え!?」
もう発車してしまうというのに、有ろうことか彼女は席から立ち上がり、業務員に一言「すみません」投げ走り去ってしまった。
「おい名前ッ!! ここまで来て便所って…、アイツもツイてねーな………」
「一人で大丈夫、よね? 携帯があるから直ぐ連絡は着くと思うけど」
御仲間達は心配そうにしているが、もう装置を身に纏い済みで身動きしようがない。そんな困惑した中でマスターは周囲を見計らい、私に声を潜めて伝えてきた。
「ブラック・マジシャン、名前ッちゃんを追いかけて!」
きっと何かある そんな顔付きだった。そう言って頂けて良かった。私も名前ッ様を御一人にさせるのが不安で仕方がなかったのです。
* * *
(名前ッ様!)
「あ……ブラック・マジシャン!」
直ぐに見つかって安堵した。名前ッ様は縁台に座って居られた。やはり御手洗いに行かれた訳ではないようだ。
(っ!)
…………名前ッ様の背後に何かが潜んでいる。情調だけでその正体を攫めれる事が出来た。何故なら、奴は私と同じ“精霊”だからだ。
(貴様は…、闇・道化師のサギーだろう)
びくっと肩を弾かせ顔を伏せた。怯えて居るように見えるが、その不快かつ奇妙な笑い声でおちょくられているのが分かる。名前ッ様に触れるなこの下郎め。
「大丈夫だよ、何もしないって。 ブラック・マジシャンも落ち着いて」
(何故この様な者と……、一体、如何なされたのですか?)
「ジェットコースター乗ろうとした時にこの子が迷子そうにしてたのが見えたの。なんか、どうしても放っておけなくて」
名前ッ様はなんてお優しい方なのだろう。 っと、感銘を受けている場合ではない。
カードの精霊が独り手に出ているということはしょじはそれ相応の決闘者だ。……闇・道化師のサギー、戦った事はあるはず。顎に手をやり幾度の決闘を思い返してみた。
――――――!
(この道化師は、海馬瀬人という決闘者の下部です!)
「海馬瀬人って…ここの社長の!?」
(ええ)
「そんな凄いデュエリストのカードが……その人のカードなら精霊が出て当然だね」
背中にしっかりと密着しているサギー。嫌でも眉間に皺を寄せてしまう。
(直ちに名前ッ様から身を引け)
(ヒ…!)
刃の眼光を投げ落とす。これでも十分殺気を抑えた方だ。
「まあまあ、そんな顔しないで」
(しかし…)
私を宥める名前ッ様に気が緩んでしまう。本当は黒魔道を打ちたい。
「ブラック・マジシャンの同じカードの仲間でしょう? 持ち主にまで届けなきゃ」
(………でしたら、私も同行いたします)
「いいの?」
(はい)
断じて仲間などではないが、サギーは何を仕出かすかわからない。野放しにしていたら不幸の賜物でしかないのだ。 こうして「ありがとう」と云う名前ッ様、延々と笑っているサギ―、奴に目を光らす私、というパーティーが完成した。
名前ッ様が縁台から立ち上がる。それとほぼ同時に、園内放送が空に響いた。
「? なんのアナウンスだろう」
『 ただいまより、カイバーマンショーの公演が始まります。お子様連れの方、特撮好きなお方は是非お越しください 』
「お、ショーなんかもあるんだね!」
(…ん?)
顔をあげると目の前には、戦士族モンスターの【正義の味方 カイバーマン】の像が建てられている建物があった。偶然と会場前に私たちは居るようだ。
(ここは調度会場前ですね)
「おお、本当d…」
「カイバーマンショーだー!」
「わーい!」
軽いが大量に聞こえる足音。 私から見て三時の方角と九時の方角からは、放送を聞きつけてやって来たであろう子供の群れが突進して来た。ブラックホールの魔法でも掛っているかのように会場に吸い込まれて行く。
「おおおおお、」
(名前ッさま!!)
私は突撃されてもすり抜けられるが、名前ッ様は人だ。子供達の群れに流され彼女も会場に傾込まれてしまった。
* * *
追いかけて入出した会場内は薄暗かった。席は先ほどの子供達が舞台の幕開けを心待ちにしている。
(御無事ですか!?)
「大丈夫。ちびっこ達すごい」
「―――――……名前ッちゃん!」
表マスター御一行が会場に入って来られた。
「走り出したっきり帰ってこないから、何度も電話したんだよ!」
「ご ごめん、落し物した人がいてさ。まだ届られてないんだけど…」
「落し物ぉ?そんなん交番に届けりゃいいじゃねーか」
「あ、そっか」
「まぁもうすぐこのショー始まるし、折角だから見てこうよ。カイバーマンショーとか面白そうだしさ!色んな意味で」
でも…、と渋る名前ッ様を説得し席に座る。少し耳煩いブザー音が鳴り会場は静寂となる。その後、軽快な音楽が流れ会場を湧かせた。
『ワハハハハハハ!良い子はルールを守って正しくデュエル!悪い子はカードで首をかき切れ!正義の味方、カイバーマン!』
「あ、あれって」
「完全に海馬くんだよね」
* * *
私には早過ぎるのだろうか(いや3000年生きている私に早過ぎる訳はない。寧ろ遅過ぎるのかもしれない)、大仰で何と言って良いか分からない見せ物だった。だが子供達は皆、満足気に頬を赤めさせて居た。
「ごめん!落とし物した人見つけたか渡してくる!またみんなで回ってて!」
「え?いいのかよ? 終わったらちゃんと電話しろよー!」
「でも、何で落とし物した側がわかったのかしら…」
「あ〜、き、きっと落とし物に名前が書いてあったんだよ」
「いや、名前わかっても持ち主がわかるわけじゃ………」
「まあまあ! 名前ッちゃんの為にファストパス取りに行こう!」
マスターが苦し紛れに補い、私に行けと声に出さず口の開閉のみで伝えられる。
私は主の従うがままに、舞台の裏に翔ける名前ッ様の後を追った。
4話に続く
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