第1話



天井に設置されている照明から放たれる光の矢は、会場の中心部を照りつけている。その輝くステージで、2名のデュエリストが決闘を繰り広げていた。白熱の勝負を求めて集った観客、みな彼等に魅了され声を上げる。

「バトルフェイズ! ブラック・マジシャンでプレイヤーにダイレクトアタック!!」

表側攻撃表示で存在している魔法使い族八ツ星モンスターのブラック・マジシャンは、マスターの命令により杖を天高く振り上げる。杖先に集中させた魔力をプレイヤーへと放つ。魔力は青白く弾け勝利を掴む攻撃となった。

「勝者、武藤遊戯!」

審判に告げられたジャッジで観客からはより一層歓声が上がる。ブラック・マジシャンが振り向くと遊戯は親指を立て勝利のマークを見せた。観客席に目をやる遊戯。最前列にはいつも遊戯が行動を共にしている、仲間たちがいた。

「やったな遊戯ー!」
「優勝おめでとう!!」

遊戯の強靭なデュエルセンスもそうだが、彼らの応援があったからこそここまでこれたのだろう。素敵な仲間をお持ちなんだとブラック・マジシャンは微笑んだ。自身も遊戯と同じ目線へ変えたブラック・マジシャンは、はっと時間が止まる感覚に囚われた。

仲間の中に見慣れない姿が紛れていた。遊戯へ徐に諸手を振り笑っている少女。周りとは異なる学校制服、そして会場の熱気とは不釣り合いな雰囲気を持っていた。
そんな詳細、ブラック・マジシャンはどうでもよかった。と言うよりそんな些細な事など考えて居られない心境にあった。

ブラック・マジシャンその少女を見た瞬間、恋に落ちてしまったからだ。






    * * *







一ヶ月後。時は光の如く過ぎたが、ブラック・マジシャンの頭にはあの時見た少女の残像が消えずにいた。

ブラック・マジシャンは彼女の名前も居場所も知らない。分かる事は真崎杏子の友人であり、遊戯が最近知り合い、遊戯達が通う学校とは違う という事だけだった。自分の主の遊戯に聞けば名前くらい分かるのだろうけれど、聞いたら変に思われる。ましてやカードが人間の少女に恋など、赦される物ではないと悟ったからだ。

「ブラマジ、次の店行くぜ」
(! は、はい)

遊戯の声で我に返る。最近ついやりがちに物思いに老けてしまうブラック・マジシャン。遊戯の背後に付き店を出た。
風が吹き桜の木々を揺らし花弁を落とす。
春、それは恋の季節とも言う。武藤遊戯の使える精霊も、恋をしてしまうような時期。ブラック・マジシャンは桜とあの少女を重ねて見るほど酔いしれていた。恋は一種の病気とも言えよう。

「おいブラマジ、お前最近可笑しいぜ」
(そうでしょうか?)
(可笑しくはないけど……、なんかぼーっとしてることが多いよね)

宿主の遊戯も現れ、眉をひそめて言う。

(申し訳ありません)
「謝事はないぜ、春だからな! へぶし」
(春かぁ……。 ジャケットもいらなくなったし、過ごしやすいねー)
「ぅえっぶし、はぁ…くしゃみが止まらない…、これは…フラグか!」
(なんのだよ)
(大丈夫ですか?マスター)
「心配ありがとうブラマジb。だがこれじゃ上手くバーサーカー魂できないな…。 ドロー!えぶし ドロー!ぶえっくし」
(汚い!鼻水をカードに掛けないで!)

「あれ? 遊戯くん?」

「ゑ?」
(ん?)
(!!!)

背後の声に振り向くと少女が立っていた。 紛れもない、ブラック・マジシャンの余光の中に映る少女だ。

「お、奇遇だな名前ッ!」
「本当に偶然ー」
「最近この商店街で見かけないと思ったが、忙しかったのか?」
「学校行事が続いてたの。卒業式とかバザーとか」

会話をしている傍らで露骨に焦りを見せるブラック・マジシャン。見るのは大会以来、それ以前に間近で見る事と声を聞く事は初めてだった。その焦りっぷりは彼女から見えないが、遊戯と表遊戯はばっちり見えていた。

「あ、そうだ名前ッ。 今週の土曜みんなで海馬ランド(笑)に行くんだが名前ッも行かないか?」
「えっ 私も同行しちゃって良いの?」
「ああ。 皆も喜ぶと思うぜ」
「ありがとう。 デュエルの腕まだまだだから、みんなのプレイング見て勉強させてもらうよ」
「この俺が直々に教えてやるぜ!身体で」
「あはは、ありがとう」
(きもいよもう一人の僕)

「じゃあ、今日はこの後バイトだから帰るね」
「変な奴に絡まれるなよ!」
(もう絡まれてるよね)
「土曜日楽しみにしてるねー」
「ああ」

そう言って名前ッは手を振り歩き去って行く。 ブラック・マジシャンは最初から最後まで名前ッを焦りながら見つめる事しかしていない事に気がつき上げっぱなしの肩をがくんと落とした。
折角出会えたのに彼女名前しか情報を得ていない。 
しかし彼はカードの精霊、名前ッに話掛ける事すら出来ないのだ。仕方のない事だった。 心臓だけは煩く動めくのに、自身は行動を起こせない現実の悲しみを彼女の背中を眺めながら感じる。



その時、風が吹き花びらの嵐が商店街を襲った。

「くっ!」

遊戯は目に塵が入らぬよう瞼に腕を当て防御態勢をとる。街行く人々も風の悪戯に対抗し帽子やスカートを抑えた。 吹きやまない風で目が開かない状態に付け込んだかのように、遊戯の腰にあるデッキケースの蓋は解放された。

「うわああああああああああ!!」
(ああっ!カードが!)

遊戯と表遊戯が叫ぶ。花弁と混じり中を舞うカード達。その吹雪の一部にブラック・マジシャンのカードもなってしまった。

「うわあああああああん!どうしようAIBOOOOOOO!」
(アホ!カードを拾ってよ!)
「俺には、でき…ない……!」
(君のそういう所マジ意味不だわー 僕と変わって!)

パズルが黄金の輝きを放ち遊戯の顔立ちが変わる。中身が表遊戯となり、優しさを与えるような顔立ちとなった。

「ブラマジ!他のカード達何所に行ったかわかる?」
(確かあちらの方角に…!)
「!?遊戯くん!」
「名前ッ!」

先ほど別れた名前ッが駆けつけてきた。

「叫んだ声が聞こえて…、戻ってきたらカードが顔に張り付いたんだけど、これって遊戯くんの?」
「うん。災難な事にデッキケースがこ開いちゃって……」

名前ッは遊戯に2つの人格がある事は知っていた。さっきと違う事に気がついたが何も聞かず拾ったカードを表遊戯に差し出す。

「まだ飛ばされたのあるよね? 私も探すよ」
「ありがとう!僕あっち探すからこっちお願いするね」

名前ッは店の前に集中的に落ちていたカードをかき集め手で埃を払った。束を順々に捲っていると、ある一枚のカードで動きを止めた。


「名前ッちゃーん!こっちは集め終わったよー!
(あ、あのカードは…! )

名前ッはブラック・マジシャンのカードを凝視していた。

「? どうしたの?」
「あ、ごめん。 魅入っちゃった。」
「それはブラック・マジシャンのカード?」
「あ! 大会で使ってたあの魔法使いかぁ」
「そうそう。僕等のデッキのエースモンスターなんだ!」
「そっか。かっこいいねー……」

その一言にブラック・マジシャンは、ぼっと顔を赤らめてしまった。光景をニヤつきながら見ている闇遊戯が、隣に居るのにも気がつかずに。

「えっとー…デッキに残ってたのは20枚で、僕が拾ったのは13枚」
「私が拾ったのは7枚だよ。これで全部?」
「うん。 本当に助かったよ〜!ありがとう!!」
「どういたしまして」

春風の悪戯で始まるストーリー






  

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