「こんにちはー」
「いらっしゃい、名前ッちゃん」

今日も名前ッ様は笑っていた。 私にもその笑顔を向けて下さったら、名前ッ様と挨拶や会話を交わす事ができれば……と少し思いふける。

「明日の待ち合わせ時間って10時だっけ?」
「8時だよ!」
「あれ?そうだっけ?」
「もー、忘れちゃ駄目だよ!」
「ごめんごめん――…」

他愛もない会話をする。御二人とも明日を楽しみにして居られるな。明日の天気が晴になる呪い(まじない)を掛けておこう。



……?


なんだか、名前ッ様が此方をじっと見ている気がする。私は背後を確認してみるが、玩具があるだけで人目を惹く物は特に無い。


「名前ッちゃん?どうしたの?」
「あ、ううん。 さて何のカード買おうかなー」

名前ッ様は何事もなくカードコーナーに張り付いた。


(…ゔーん)

ブラマジ!カモン! と闇マスターに指をくいくい曲げられ、耳を傾けろと命じられる。






(なぁ。名前ッのやつ、ブラマジが見えているんじゃないか?)
(…!?)
「まさかあ!あり得ないよ!」
「遊戯くん、何か言った?」
「あっ何でもないよ!自由に見てて!」

会議場を店裏へ移す。 表マスターの云う通り、通常では有り得ない筈。マスター達以外の者が姿を見る事は不可能だ。

(とってもわかりやすいをご用意したぜ!)
「ひどいね君の画力」
 

(そんなわけで、訊いてみよう)
「やめなよ。変な人って思われるよ、元々思われてるのに」
(気になる事を放っておくと息が詰まる。ブラマジも訊きたいだろ?)
(あまり肯定は出来ません…)




店に戻ると、名前ッ様がカウンターに商品を置いて待って居られた。

「毎度あり!えっと、値段は750円だよ」
(よし、俺が聞いてやるぜ!)

ぐっと拳を突き上げ意気込んだ闇マスター。まさか……、先刻話した事を!?

(心配するなブラマジ、俺がお前等のお注射天使リリーになってやる!!)

心配しか出来ませんマスター!! 

闇マスターは反対する私を制して、宿主様の体に入り込んだ。首から下げているパズルが黄金の輝きを見せる。窓も開いていないのに前髪が靡く。





(ああっ!また勝手に!)

精神体として放り出された表マスター。闇マスターの頭を殴るが、ダメージは与えられていない。

「名前ッ!」
「あれ、もう一人の遊戯くんだ」

話しかける闇マスターは何の咎めも感じられてない御様子。名前ッ様も人格交代を特に驚き示していない。

「俺の隣にいるやつが見えてるか?
こいつをどう思う?」

闇マスターが私を指差した。

「すごく……大きいです」
(何言ってるの名前ッちゃん!?)

表マスターと同じく、何を申されているのかさっぱりだ。





(マスター、えーと………)
「わ!声も聞こえる!」
(!!)

今度は名前ッ様が指差し、驚きをみせた。

本当に、
本当に、私が見えているのか?


「やっぱり名前ッにも見えるんだな」
「うん。 いつもうっすら見えてたんだけど、今日ははっきり見える。まさか声まで聞けるなんて……」
(僕は見えないのかな?おーい!名前ッちゃーん!)
「見えてるよ」
(ええ!?本当に!?)

出会った時の場面に巻き戻ったかのようだ。動悸が起こり、体温が上昇する感覚が私を襲う。

「子供の頃から結構見えてたからさ。カードのお化けとか」
「おっとそれは違うぜ名前ッ。コイツ、魔法使いブラマジは俺のカードに宿る精霊なんだ!」
「カードの精霊?」
「戦慄を学び戦いを繰り返して来た決闘者のみのカードに宿る魂の事さ」
「そうなんだ。遊戯くん取り憑かれてるのかと思っちゃった」
「幽霊とか怖いやつじゃないぜ」

いつも…うっすら見えていた……、まさか、いつも面会している時に名前ッ様を眺めている事がバレている!?私はその時、一体どんな面構えで居たのだろう。

だらしないに違いない。なんて恥極まりないんだ私は!



「初めまして、ブラック・マジシャン」

頭を押さえ壁と対面していた私は振り返ると、直に見上げている名前ッ様と向かい合わせになった。
向けて欲しいと願った微笑みが、今、私の前に。



「私、名前ッ。宜しくね」
(…………。 …初めまして、名前ッ様)

このように会話が成立する日が来ようとは、思ってもみなかった。






  

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