見えない温度


先生も、お母さんお父さんも、大人はみんな「嫌だと思うことから目を逸らしちゃいけない」っていうくせに。私は見える物があるから、あそこに何かいると言うのに。
みんな、そっちを見ずに、変な目をして私を見るの。

私は生まれた時から今まで変な物が見える人間だった。変な物というより、モンスターやお化けに近かった。ある時はドラゴンが道端に座っていたり、行程にでかい虫が倒れていたり、骸骨が学校の椅子に座っていたり…………
私はそれを誰かに知らせると必ず、気持ち悪い、変だと言われるんだ。私はこの奇妙な物を映し出す目を呪った。


        * * *


下校途中、私の帰り道には公園がある。その公園は昔良く遊んでいたところだったが、後から引っ越してきた男の子に占領されてしまって入らなく場所だ。

「!」

木の影から何か嫌なオーラを感じた。背筋が寒くなるようなこの感じ。いつものアレだ、と私は公園に背を向けてその場を後にしようとした。

(……グスッ)

その時、さっきの木の影から微かに聞こえた。

「……鳴き声?」


        * * *



(うっ……ぐすっ…ぐすっ…)
「どうしたの?」
(!?)

私は思い切って話しかけることにした。うずくまっていた“ソレ”は顔をあげて私を見た。
今回は、人間かモンスターか区別がつかいなかった。だってこの子、私とほぼ同じ。おかしいところと言ったら服装だけ。肌の色も顔もいつも見えてるモンスターとは全然違う。


「あー!また名前が勝手に公園に入ってる!」
「(!)」

この勝ち誇った口ぶりが飛びかかり、私の体がびくんと震えた。振り向くとそこには、引っ越してきた近所の男の子たちが居た。

「どうせまた変な物が見える〜とか言ってるだけだぜ」
「気持ちワリィ〜。バーカ!」

男の子達の一人がどんっと押してきて、私は地面に倒れ込んでしまった。

「痛っ……」

男の子達は私を指さし、笑い転げながら去って行った。踵の皮膚がめくれて血と共に涙がジワリと溢れて来る。こんなの、もう何年も味わっていても涙は出るものなのだと実感した。






(……大丈夫かい?)

その声にびっくりして、涙を拭わないまま顔をあげてしまった。私の前には、さっきのモンスターが顔がはっきり見えるように立って居た。

(泣いているの?)
「あなただって、さっき泣いてたじゃない」

折角話掛けてくれたというのに私も天邪鬼だ。でも、モンスターも私の言った事を気にしたのか、口をごもらせた。

「あなたはだれ?」
(……僕は、ミラクルフリッパー)
「なんだか、テレビに出る魔法使いみたいな名前」
「みたい、じゃなくて僕は魔法使いなの!」

と声を荒らげた後に、しょんぼりとした。

「僕は………捨てられたんだ」
「捨てられた……って、だれに?」
「僕のマスター」

フリッパーが目を地面に落とした付近には、紙切れが落ちていた。綺麗な長方形でカードの様だった。
私は拾い上げると、そのカードをまじまじと眺めた。カードにはフリッパーが写っている。杖を持ち、魔法の光を放っているイラスト。

私はつい言葉がこぼれた。

「…………キレイ」
(え…?)

きらきらとした装飾もないカードだが、魔法のエフェクトや色合いが独特で、とても綺麗だと思った。

「ねえ」
(な、なに)
「私がこれを拾ったら、あなたのマスターはわたしになるの?」
(!!)

フリッパーは大きな目をしぱたかせた。

「ねえ、どうなの?」
(ま、マスターになるけど……貴女がなってくれるの?)

少し不安そうに私の顔をのぞいて手元はもじもじしている。きっと、前のマスターのように捨てられるのが怖いんだろうな。私は、そんなひどいことをしない。

「いいよ。私はあなたを捨てたりなんてしないよ」

フリッパーは悪ガキ達が去って行った方向を見た。

「他人なんか気にしないでいいよ。どうせ言われなれえてるし」

でも、突き飛ばされて泣いたのは事実だ。気にしない、なんて言葉は自己暗示みたいなものだ。

フリッパーは私の話を聞いて眉をひそめたまま何も言わなかった。
するとフリッパーは、しゃがんでいる私の前に膝をつき、自分の胸に手を当てて真剣な顔を見せた。

(僕、誓うよ。貴女を守るって)
「守る……? 
 お化けなのに、人間を守れるの?」
(お化けじゃないよカードの精霊だよ)

フリッパーは私の手に触れてきた。

「ひゃっ」
(あっ、ご、ごめん )

フリッパーはぱっと手を離し、照れくさそうに帽子を深くかぶりなおした。

「大丈夫だよ。
 カードを持ってる人は貴方に触れるんだね」
(う、うん、そうだよ)

照れて火照った顔をパタパタ仰ぐフリッパーを見て、なんだか可愛いと思ってしまった。

「じゃあ、帰ろっか」
(!)
「今日から私の家があなたの家だよ」

そういって手を伸ばすと、フリッパーはぱぁっと大きな目を輝かせ自分の手を伸ばした。そして二人の手が重なった。手の平には、またひんやりとした感覚が広がる。しかし、私はそれを愛おしく感じた。

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