唇にリボルバー
「見つけた」
「…………っ!」
迂闊だった。学校外だからといっておおっぴらに河川敷で寝っ転がりながら煙草をふかす物ではなかった。捉えられた右腕に挟んでいた煙草が草上に落ちて天に煙を伸ばしていく。
「今度また三者面談だね、名前くん」
煙草をつまみあげてドヤ顔でする右京先生を力いっぱい睨んだ。
私は三者面談や停学なんてもう日常茶飯事だった。今更どんな叱り方だろうが殴られようが刺されようが驚かない。所謂不良というやつ。
「こんなもの吸ってはいけないよ。君は成長期なんだから」
「毎回毎回うるさいなぁ。私の口が寂しいって言ってるの」
先生は呆れたように肩をあげて、煙草の火を地面で消した後、ポケットをあさった。
「じゃあ、これをあげる」
そして私の手に置かれたのはいちご味の飴だった。
舐めてるのかコイツ。飴なだけに。
先生のこういった所が本当にいちいち気に入らない。皆に優しくて頼りになるみんな大好き右京先生ってか。馬鹿馬鹿しい。
私は大人がみんな嫌いだ。特に、こういった綺麗な形の先生が。
「いつもこんなもん持ち歩いてんの?気持ち悪い」
「いや、これはクラスの女の子に貰ったんだ」
その台詞にイライラが加速した。他の女にもらった物で私の機嫌を買おうとでもしてるのか。
「バカにするのもいい加減にしてよ」
「いや、君が口が寂しいって言ったから」
「うるさい!!」
嗚呼、ムカつく。
胸に集った黒いもやが晴れない。一人になりたくて声を荒らげ、先生威嚇した。だけれど先生は私の傍を離れず黙ったまま沈黙を味わっていた。
「君には少し思い知って貰おうとおもってね」
いきなり先生のトーンが低くなった。私はその低さに恐怖を感じて身を構えたが、思いもよらぬ事が起こった。先生は差し出したと思った飴を自分の口に入れてしまったではないか。
そして眼鏡を外し、私をものすごい力で引き寄せた。それはまさに、大人の男の力で。
「ーーーー」
「私は男であること、君よりずっそと大人であるってことをね」
他人の唇など当たったことがない私の唇を、先生の舌がぺろりと舐めた。そして先生は、見たことがない顔でニヤリと笑った。
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