憂鬱ホリデー


午後を回った空は真っ青で太陽だけぽつんと置かれてた。陽射しが地上を照りつけ過ごし易い環境を保つ。 天の下に住む内の一人である名前は、部屋でカードを眺めながら過ごしていた。開けられた窓からは風が入り鮮やかなカーテンを撫でる。
休日は出掛けるのが常套染みているが、何よりもM&Wが好きで仕方がない名前には此方のほうが休日として幸福を感じるのだ。




規則正しく並べられてあるカード達。そこにある一枚のカードが、混沌のオーラを放ち始める。禍々しく蠢くオーラはカードから飛び離れると床へと着地し、漆黒の魔術師 ブラックカオスへと姿を変えた。
ブラックカオスは机に向い座っている名前を確認すると小さく笑い、艶のある黒髪を揺らし近寄った。


「あ、いらっしゃい。ブラックカオス」

彼の胸の温度が一気に冷めていくのが表情で悟れる。

名前の膝上には先客のクリボーが居たのだ。名前にべったりくっつき、顔をすり合わせて甘えている。それを目の辺りにした彼は眉がピクッと動かした。

「もー、擽ったいよクリボー」

一人と一匹だけで楽しそうに戯れる。べたつきの前で滞っているブラックカオスだけは当然面白くなく、クリボーを黒き眼子で見下す。その眼力は罵る者も黙らす事が可能なのだが、標的のクリボーは気づきもせず名前から離れない。

どす黒い眼差しに気がついたのか、名前は彼へと手を伸ばした。

「………?」
「ブラックカオスもなでなでしてあげる」

何故そうなるのだと心中で困惑するが、容易に油断を零さぬが魔術師の格であった。顔を横に振って後退ったブラックカオスに名前は「いいよ。遠慮しないで」と、詰め寄る。その顔は悪戯を企む子供、というよりも魔宮の賄賂に描かれている商人の顔と言った方が適切だ。

トレードマークの帽子を奪われ、ブラックカオの黒く長い髪が靡く。

「あ 待て!」

もう少し、という所で消えてしまった。
逃げられたー!と吠える名前の手には奪った帽子だけが残った。彼らモンスターは、都合の良い時に出現や撤収ができてしまうのだ。

「くそー……。ブラックカオスの髪触ってみたかったのに」
「クリーッ」
「え? クリボーも帰っちゃうの?」

縦に頷くクリボー。 名前からブラックカオスの忘れ物を受け取り、静かにカードの中へ吸い込まれて行った。



  * * *




ブラックカオスは、自分達の世界に戻ってくるなり深く息をつき髪を掻き乱せてた。

一人の人間ごときに好き勝手させればどんどん付け込まれる。ああいったタイプは特にだ。…………クリボーが間に会わせていなければ、従っていたかもしれない。そんな事を少しでも考える自分に腹を立てる彼だった。

「クリー」

ぽんっとブラックカオス同様に現世から戻って来たクリボー。辟易する彼に顧みず、目線が並行になる高さまで浮遊し何かを伝え始めた。モンスター同士であるブラックカオスにはクリボーの伝えたい事が理解できた。

勇ましい顔つきをし、身振り素振りで「ご主人さまは渡さない」と言っている。最上級魔術師を敵に回す発言だというのにクリボーは全く恐れを示していなかった。

「……上等だ」

クリボーから帽子を取り上げ呟く。
深く被った帽子の下には、不適な笑みが窺えた。

感想お待ちしております
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -