ステイチューン


今年に入ってからかな。仕事で溜まる疲れを体に背負わせたまま、会社に出勤する生活を送り始めたのは。まあ、仕事が忙しいのは瀬人様の人使いが荒いだけなんだけどね。 
私の勤めている会社は、ゲーマーなら誰でも知ってるアミューズメント企業の海馬コーポレーション。大手企業に相応しい大変な仕事内容ばかりだけど、遣り甲斐があるし給料も良いので私自信勤めるのを苦とは思わない。デメリットとして休みが究極に少ないが、いざ休暇となっても、仕事で動き回る習慣が板に付いてしまって何をすれば良いのか分からなくなる。休暇より今の働き詰めでを好むこの体は、ワーカホリックだと自分で診断結果を出した。そうともなると、一人で暮らしてるあの豪華ともおんぼろとも言えない1LDKへ帰る意味が無くなるのだ。

 この前友達から結婚するという知らせが来た。来月に式を挙げるそうだ。結婚か……、羨ましいな。私は結婚への憧れ云々の前に、まず相手がいなかった。周りが幸せになっていく環境で生じる焦りの感情。それに背中を押されて参加する飲み会でも、心に留まる人物が出来ないのだ。忙しさにかまけて“こんなものだ”と自分に言い聞かせても、家に帰った時の静けさが一人身を辛くさせる。それを避けたいが為にワーカホリックになっているのかもしれない。

…………私はこのまま年を取っていくのだろうか。
仕事で他の事を袖にして、生きていく中の大切な何かを手放そうとしてるのではないだろうか…………。



「―――――おい 聞いているのか」

ドスの聞いた声で縛めが解ける。視線を伏せ気味にしていた私は面を上げると、瀬人様が鋭い眼光が私の目を貫いた。

「書類を俺の部屋へ運べと言ったはずだ」
「も、申し訳ありません。直ちに」
「貴様に呆ける時間を与えた覚えはない。さっさと仕事を熟せ」
「はい、申し訳ありません」

深く頭を下げた後、山積みの書類の一部を持ち上げて逃げるように瀬人様の失礼した。

はぁ、仕事中に考え事なんてするもんじゃないな。この書類は大袈裟な位重いし、社長室とあの会議室やたら離れているし。私の力であの量を運ぶには何往復もしなければならないや。まだ書類は沢山あったなぁ、早く行かないと今度こそ瀬人様から大目玉をくらうハメになってしまう。




「…………モクバ様?」

社長室を出る私を待っていたように、戸の前でモクバ様が直立不動として居た。

「いかがなされましたか?」

モクバ様の口を開きかけた時、おそらく此方へ来るであろう足音が、廊下の曲り角の奥からコツコツと響き始める。モクバ様は、子供の力と思わせない程の力で私の手を引き社長室の隣の部屋へ駆け込んだ。そこは電気がつけられていない部屋で、ドアを閉じられると視野が暗くなる。何の用か訪ねたかった私の口は、モクバ様の小さな手で塞がれる。
ドア越しで足音が通り過ぎ、完全に音が途絶えた後、私は空気を吸うことを許された。

「モクバ様、これは一体…」

暗闇で上手く認識出来ないか、モクバ様がニッと口角を上げたのはわかった。

「疲れたろ? 遊びに行こうぜぃ」
「しかし……まだ仕事が残って居るので、外出には動向は他の方にお申し付けください」
「名前じゃないと外出なんて動向してくれない思うんだよ」
「私もそんな許可は卸せません。どうかご理解ください」

モクバ様はこれでも副社長だ。少しでも気分を害するような言葉を呟けば解雇も免れないので、はっきりとはお断り出来ない。

「大丈夫だって! 例え兄樣怒られたとしても、俺が何とかするから」

私の反対を粗野にすると部屋ドアから顔を出し、左右を見渡してから廊下を駆け出した。手を掴まれたままの私も相俟って走る。これは………非常にまずい展開になったぞ。

「パフェが食べたいな。まずファミレス行こうぜぃ」

彼の見せる幼さを特有にした笑顔を見て、私は切迫した気が緩ませた。いやいやい緩んではいけないでしょう、仕事中にサボりに出るなんてクビにしてくださいと言ってるも同然だよ。それに何か可笑しい。小学生の男の子と手を繋いでるだけなのに、胸がドキドキしてる。いくら異性に免疫が少なくてもこれは可笑しいんじゃないだろうか。



「名前ってさぁ」
「はい」
「彼氏とかいないんだろ」

鼓動がが停止寸前まで遅くなった。 副社長とはいえ、社員のこんな事を聞き出さなきゃならない理由はないはすだ。それにこの副社長、小学生なんだけど。

「……申し訳ありませんが、プライベートの事なので返答しかねます」
「ずっと会社に居るもんな。彼氏なんていないに決まってるぜぃ」

この……っ 子供のくせに、言うに事欠いて!
手を振り解きたいのを私は懸命に我慢して愛想笑いをモクバ様に見せる。なんでこうも現在の悩みをピンポイントでつついて来るのか。帰りたい。仕事しに帰りたい。副社長の前だというのに、失礼にもため息を吐きたくなって仕方がない。




「しょうがねーから、俺がなってやるよ」
「え?」

飛び交う車の音で上手く聞き取れなかった私の為に、モクバ様は信号が青に変わった頃に言った。

「なるといっても、彼氏じゃないぜ。婿だ!」
「な…!?」

にを、言っているのだろう。この子は。

「このままいったら名前は出遅れて一生独身になっちゃうからなー。だから俺が18になるまでKCで働いてろよ」
「しかし、モクバ様は現在12歳であらせられて、18歳になられるまであと6年もお時間がございます」
「だから?」
「モクバ様はお若いのにそんな淡々と伴侶を決めてはなりません」
「ふーん。名前は俺が間違ってるって言いたいんだな?」

モクバ様の眼がヤクザのそれに変わった。

「い、いえ、ですが……なぜこんな突然……」

………………………まぁ、モクバ様もマセる年頃なのだろう。年上のの女子に引かれるとか、誰でもいいから彼女を欲しいとか。男の子も他の子との競争心が自然と働くのだから彼女持ちとなって勝ちの位置に立ちたいのだろう。


「なんで気づかないんだよ……」

唸るような声で呟くモクバ様が、ぎゅうっと手を締め上げる。黒髪で見えかくれする赤い耳に、私はまた少しずつ心臓の速度をあげていく。
振り向いて見せた彼の顔はとても不機嫌そうで、真っ赤だった。

「………だあーもうっ。パフェ、今日は特大サイズ食べる!名前っ、奢れよな!」
「は、はい」



大きなグラスに盛られたパフェを美味しいと言って頬張るモクバ様を珈琲を飲みながら眺めた。女側に奢らせる時点で……と私が言ったところ、「大人になったらバックでもダイヤでも買ってやる」と生クリームを付けた口で言った。
こんなに可愛い顔をした男の子に将来嫁ぐなんて有り得っこないと結論着けたが、私の脳内では未来予想図が浮かびあがっていた。モクバ様だって、6年も歳月があれば気持ちが変わるに決まってるのに。

でももしモクバ様の気持ちが変わらないで、今日私に言った言葉を再び言ってきたら、はたして私は今日と同じようにそれを躱せるだろうか?その答えは、6年後じゃないと出せない。

感想お待ちしております
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -