エイプリルフール


それはそれは穏やかな朝だった。

「おはようでござる」
「おはよ ヤリザ。今日はなんか遅かったね」
「忝い。皆にバレぬ様う伺うがは、些か難儀でござるので」

六武衆所属の武士 通称ヤリザは愛しき恋人の為に軍からこっそり奔逸し、名前との逢引に付き合っている。二人の関係は内密だった。六武衆の皆にも知り得てない。
今日も恒常に傍で過ごし、皆が来る時刻の前にあちらの世界に戻るのだろう、とヤリザの心中には安泰な景色が広がっていた。だが本日は特別、彼女から重大発表があった。


「ヤリザ。実は私、隠していた事があるの」
「何事でござろうか?」
「…………私ね…」

名前の艶めかしい表情に息を飲む。一体何をし始めるのかと思った矢先、ヤリザはぎょっと眼を丸くさせた。目の前に居る彼女が、己のシャツのボタンを外し始めたではないか。

「なっ、な!?名前殿!一体ななな何を……っ!」

当然二人はまだそんな関係ではない。顔を真っ赤にし後退る彼を、扇動する様に詰め寄る。逃げ果せるヤリザの背後にはもう壁のみとなっていた。僅かにしか伺えない彼の眼が、これでもかと云う程に慌てるさまを見て、名前はにやりと口角を挙げる。そして、最後のボタンを外し終え――――………



「実は俺、男なんだぜ!」

「なんと!!!?」

ばっとシャツを剥がし半裸姿を晒した。



「誠にござりますか!?」
「ああ。 今迄あった胸とかはパットだったんだ」
「さ、左様でござったや…!
今までのおなごの姿は、偽装りて事でござるな。見抜けれぬとは情けのうござる…!!」

「(ふふふ。騙されてる騙されてる)」

説明しよう!

名前が今着ているのは、男性の裸がプリントされているスーツなのだ!(ド●・キホーテ:4980円)
なので名前は前も女であり今も女である。 自分の不甲斐無さに痛み入り拳を握りしめるヤリザ。武士としての見定めが衰えている訳ではない。名前がヤリザを騙しているだけなのだから。彼を真剣な面持ちで眺める名前だが、内心では大爆笑していた。

「ごめんな、今迄隠してて」
「良きとでござる。  いやはや、其れにしても完璧な偽装でござった。今までの名前殿は本物のおなご同然。名前殿は忍の才が有るで御座るよ」

あまり誉められてる気はしなかった。まじまじと見る彼の眼にやましさは無い。だが本当に身体を凝視されているような感覚に落ちる。

「…………わたs、俺の事、嫌いになったか?」
「滅相も無い!こが程度にて貴殿を嫌いになるなど、拙者のダイレクトアタックが通らぬ事と同じくらいあり得ませぬ」

少々伝わり憎い物言いの筈が、真剣な声音で告げられた所為 か名前の脈道は速さを挙げた。

「名前殿は名前殿。男だろうが、慕う事をば止めぬでござる」
「ヤリザって両刀なのか」
「さふゐった事を申してるのではありませぬ!」
「だって男でも好きって事は………」
「それは、名前殿ゆえにでござる。 りて申すや名前殿がこの先、狼になろうが、龍になろうが、妖怪になろうが、一生お仕えする気で拙者はお傍に付けしめてもらっておるとでござる」

いつもなら照れながら云ってくる彼だが今回は訳が違った。片時も逸らさずに言い伝え、眼を細める。そ れは名前のよく知る物で、大好きだが苦手な物でもあった。その眼差しを向けられると切羽詰まって自身のも気持ちを吐き出したくなる衝動にかられてしまうのだ。

「…じゃあ、これからも傍にいてくれる?」
「勿論でござる」

ヤリザはそっと名前に近づき甲冑に引き寄せる。その腕の優しさは壊れ物を扱う様だった。半裸の男を抱きしめている男(武士)。他から見たらガチホモの完全体だ。

「全く嫌など思わないでござる」と呟くヤリザは幸せそうだった。
彼は心底名前を慕っている。騙して苛め倒してやろうと目論んで行ったこの計画。しかしそんな気は、ヤリザの温もりで溶けてしまっていた。 後ろめたさに負け、ネタばらしをしようと彼女が身を捩ろうとした時。

「は!かくしちゃいられん!!皆の衆に知らせなくては!」
「え」
「では、お暇し申し上げる」
「ちょちょちょ、  待って!」
「!」

これは元々ヤリザにしか見せないと制限を掛けていた。あまりの人数を騙したら面倒になる。そう思想した名前はとっさに手を伸ばしヤリザの腕を捕える。
しかし、急なのが拙かったのだろう。ヤリザは後方によろめきバランスを崩し床に身を打った。 転倒したヤリザと繋がっていた名前も倒れる。現状を詳細に示唆すると、ヤリザの足と足の間に身がある状態であった。

「御無事でござろうか……!」
「…う、うん……」

双方、動揺してるのが伺える。動こうか動くまいかと悩む時間が彼らの心拍を狂わせた。





「名前ー参ったぞー!今日こそ某の嫁にー…

!?」

空気が一気に氷河となった。

六武衆一行の驚愕、凄惨、不純、と混じり合った視線が床の二人に食い込む。 名前宅に現れてもいい時刻を過ぎたのだ、彼らが現れるのは至って当然だった。嬉々として登場したシエンが、わなわなと身を震わせ始める。


「名前………っ、ヤリザと出来ていたのか!!!」
「シエン殿、一番の由々しき事態は名前殿の御体です」

エニシに言われて気がつく名前の絶壁な胸板。しかしシエンは聞く耳を持たず己の剣を抜いた。

「ヤリザ…… 貴様、このシエン御執心である名前に手を出したとは………それだけでは飽き脚くらず、その様な破廉恥行為をさせようと…!!……其の罪、償りてもらおう」
「シエン様、否、是は…っ!あ、関係は誠の事にございますが…」
「!! 否定をせんとは、命が惜しくないのだな! エニシ、キザン。ひっ捕えい」
「「御意」」
「ひいい!ご勘弁を!」
「ごめんまじでごめん、みんな落ち着いて」
「御主人は男性だったのですね。通りで胸の無いおなごだと思いましや…」
「そこはほっといて下さいミズホさん!」
「心配するなヤリザよ。あの世へ行っても、某が名前を恭悦至極に致してやろうぞ!」
「シエン!タイムタイムタイム!」

………―――――――――――


結局名前は、六武衆の前で正座しながらネタばらしをした。シエンは「裸体を見せるまで信じない」と言っていたが魔法カード、ハンマーシュートにより沈黙させられた。もう二度とこんな悪ふざけするものかと誓う名前であった。

だが災難だらけでもない。その後に二人の関係が認められたのだ。
相手のヤリザも名前が女であった事に何所かほっとした様子だったが、名前に向ける瞳は一辺も変わらなかった。彼が送る眼差しは、何時でも主君を想う情緒があるのだ。

April Fools' Day
嘘もほどほどにね!

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