青春真っ盛りで癲狂となれ


何気無く借りた恋愛小説を読んでいて思った。恋をするって具体的にどんな事すればいいのだろう。 私も恋はしてるとは思う。その人にときめく、そこまではわかる。だけど何をすればいいの?告白?口説き?貢ぎ?尾行する?最後のはちょっと違うようなー…………

「本を読みながら歩くんじゃねーよ、背後をとられる」

本から顔を上げると目先にジャッカル岬さんがいた。目くじらを立てている彼女でも、会うのが一ヶ月ぶりだから嬉しい。学校にはちゃんと行ってるのだろうか。

「ああ?あんなトコ出席日数が足りてりゃ行く意味ねーだろ」

でも制服は着てるんですね。

そうだ。どんな事をすると恋してるって事になるか聞いてみよう。

「殴り合いだな。それしかねぇ」
「ナグリアイ!?」

面食らった私に構わず続ける。

「好きなヤツが振り向いてくれるまで殴る。なんな感じだ」
「そ、それ本当に……」

岬さんは私の追求を弾き、背を向けて「じゃ、気ぃ付けて帰んな」と裏路地の闇に消えていった。


* * *


岬さんのあの話本当なのかな……。殊更わからなくなった気しかしない。 恋してる人は、みんな自分を好きになってくれる為に好きな人を殴るの?そんな事したら相手に嫌われてしまうどころか、死んでしまうんじゃ……

「名前?」
「あ、はい!」
「どうした、そんな思いつめた面して」

雑賀さんがコップを私の前に置き向かいの席に座った。
いつもの感じで雑賀さんにデュエリストの話を聞こうとやって来たけど、思い倦ねてしまっていつも以上に喋れない。しかも生憎雨が降ってきてマーサハウスに上がらせてもらうことに。

岬さんの助言(?)が気になってデュエリストの話所じゃない。もう思いきって色んな人に訊いてみてしまえ。


「雑賀さん」
「なんだ?」
「好きな子を、殴った事ありますか?」

そう訊ねると、雑賀さんは呑んでいた珈琲で噎せていた。   間違えた!「どうすれば恋してるという事なのか」が題材なのに、岬さんが言った事を訊いてどうする。

「何を言ってんだお前…! まさか俺が、女に手を挙げる男に見えるって言い回しか?」
「ああああ違います、これは教わったんです」
「教わった?」

雑賀さんは片方の眉を上げて訝しげに問う。

「友達のジャッカル岬さんにどんな事すれば恋をしてるって事になるのって聞いたら、好きな人が振り向いてくれるまで凶器で殴る。って教わって…………」
「あいつか…。まぁあいつならそう言いかねないな」
「知ってるんですか?岬さんを」
「伊達に情報屋やってるわけじゃねぇんだ。風格ぐらい知ってるさ。喧嘩っぱやい姉御ってな……」

背にもたれ嘆息した。

「やっぱり違うんですよね、殴ったりしなくていいんですよね?」
「ああ」
「よかった。私には、雑賀さんを殴るなんて出来ないですから……」

また珈琲で噎せていた。今度は多く気管に入った様で盛大に。大丈夫かな雑賀さん…………………………………あれ。

「あっ」

失言を失言だと認識するのが遅かった。気がついた途端にかっと顔面が逆上せる。何言ってんだよ私は!!!!
口を押さえたまま此方を見てくる雑賀さんに何て言えば良いのか分からなくなってきた。

「…………名前」
「あの、あの、違くて今のは…っあ、違くはないんですが、その、いや違くぁwせdrftgyふじこlp」

「あーっ 名前おねーちゃんだ!!」

タイミングよくマーサハウスの子達が部屋に入ってきた。助け船!! 騒ぐ子供達のおかげで切迫した空気が薄らいだ。

「なになに?何の話してたの?」
「な、な、なんでもないよ、ちょっとこの前ネットオークションしてたら残り10秒の所で他の人に入札されたんだって話だよ」

壁の時計を大袈裟な身振りで見ると5時きっかりを指している。

「もうこんな時間だ。バイトに遅れてしまうー、では今日はお暇しますね。お邪魔しました!!」

神かかった速さでお辞儀して、私は雨降る中マーサハウスを飛び出した。



「ねえ雑賀さん、本当は何の話をしていたの?」
「………殴り合いの話かな」
「え……っ」
「殴り合いー!?」
「うわーん!怖いよー!」
「こら!何子供達泣かしてんだいアンタは!!」
「マ、マーサ落ち着いてくれ。料理中だったがしらないが取り敢えずその包丁を下ろしてくれ!」



走ってる間、ずっと雑賀さんが頭の中に居た。恥ずかしすぎて涙出てきた。いっそのこと雑賀さんを凶器で殴って記憶の抹殺でも摺すれば良かったのか、ってそんな事私に出来るわけがないとさっきも言っただろ馬鹿馬鹿馬鹿。雨の中爆走する辺りはもう馬鹿の極み。
これじゃ今度から雑賀さんに会わせる顔がないじゃないか。困る、色んな意味で。

その時、私のディスクからピピッと音が鳴り光が点滅した。いけない、雨に浸したら壊れてしまう。一旦、屋根ある建物の下に身を置き服の裾でディスクの湿気を落とす。

ボタンを押してみると「名前」とディスクが私の名を呼んだ。でもこのハスキーボイスの持ち主はディスクじゃない、紛れもなく雑賀さんだ。
これは無線というやつだろう。いつの間にこんな細工を施されていたんだ。私は荒らぐ息を賢明に整え一息置いてから、ディスクに返事をして耳を傾けた。

「さっきの話の続き、明日聞かせろよ。……じゃあな」


少女よ 恋が醸し出す切なさに狂え。

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