ヒューマニティ


ライブラリアンが変態。少々お下品です。

「ブレード・ガンナーのメンテ終了、まだかなー」
「もう終える頃だと思われますわ」
「あれ…、ライノとファルコンは?」
「こうした落ち着きある事、奴等はしてられないそーっすよ」

ワンダー・マジシャンから配られた紅茶を啜って謂うストライカー。私も彼女から紅茶を貰って香りを堪能する。今日の紅茶葉は私が持参した。何の紅茶かは忘れたけど、いい香りだ。 
見ての通り、この一時は皆鎧やら帽子やらを脱いでだらだらする時間。速くブレード・ガンナーも来ないかな。皆とこうして紅茶呑むのも楽しいけどやっぱり彼がいないと物足りなさを感じてしまう。

「名前…、この紅茶 ちょっと苦い」
「サイバー・マジシャンにちょっとキツかったかな。砂糖入れてみてね」
「つかぬこと事をお伺いしますが、名前さん」
「? 何?」

眼鏡レンズを光らせるライブラリアンが、真剣な面で詰め寄ってきた。

「ワンダー・マジシャン、サイバー・マジシャンの耳を塞いでくれたまえ」

彼女はライブラリアンの要請を無視してコップに口を付けてる。だが彼女が左指をパチンと鳴らすとそれだけで魔法が発動したらしく、サイバー・マジシャンの耳にイヤーマフが現れた。あら可愛い。



「彼、ブレード・ガンナーとのセックスなど は どの様になさってるんです?」

口に含んでた紅茶全部吹いた。

「ここは健全サイトだ!変態は出ていけ!」
SLAM!
「ぐっ!!」

投げたポットは見事ライブラリアンの額にヒットする。この変態メガネ。デュエル内で優秀だからって何云っても許される訳じゃないんだからな。 取れないマフを叩いて「何の話をしてるの?」とサイバー・マジシャンが云う。駄目だ!お前は駄目だ!

「描写をしている訳ではないので大丈夫でしょう」
「ブレード・ガンナーとはそういう事しないの!」
「それ、生物として我慢できるんすか?」

ストライカーもか!なに思春期の中学生みたいな顔してんの。人型モンスターもそんな話するのかと愕然してしまうだろ! SOSをワンダー・マジシャンに送るが、呆れた顔で紅茶を呑むだけで助けてくれそうにない。

「好きとお思いなら、したいと考えるのが人間であり動物の本能でしょう」
「………っ、そんな事が出来なくても、彼が好きなのは変わらないし!」
「んじゃあ、名前さんはこれから永遠にしないんすか?」
「うん!」
「女性でよかったっすね〜…名前さん…」
「はぁ、なんで?」
「我ら男性の事情 ですよ」
「なんなら、したい時 俺を呼んでくださいよ! そしたらー…」

SWAAM!
KLAAAANG!!

「じ、冗談なの、に……」
「やめなさいなストライカー。乙女心は複雑なのよ」

あーもう、馬鹿馬鹿ストライカーとライブラリアンの馬鹿。なんて不躾な連中なんだ。 

私とブレード・ガンナーは、確かに恋仲だけど。出来る訳がないでしょう、彼はアンドロイドなんだから。そ、そりゃあ……私だって、出来ればブレード・ガンナーと、せ、せ、……そういう事をしたいとは、思う。ほんのちょっと。

だけどそれは、ブレード・ガンナーだから思えるんだ。

万が一性欲が抑えられない日が来ても、他の男と身体を重ねたりなんかしない。そんな事すればブレード・ガンナーだって私を軽蔑するだろう。私は嫌われたくないし、彼を傷つけたくもない。

何も出来なくとも、ブレード・ガンナーといられるだけで幸せだって思えてるもん。 そうともさ、今迄ずっと思っていたじゃないか!


    * * *


「アンチノミー、いる?」
「ああ、名前。ブレード・ガンナーのメンテナンスなら今終えた所だ」

部屋で一人、モニターから目を離さず機械を巧緻な手付きで操ってる。プラミング画面なんだろうけど、それに映し出されるのは何時でも自分では理解できない物ばかりだ。

「まだデータ同期中だからコードを抜かないように気を付けてくれ」
「はーい」

禍々しい機械の間を歩き、奥にある鋼鉄製の扉を開く。スイッチを押し暗がりに光を灯す。部屋のより深部に、ブレード・ガンナーの機体が傾斜で置かれていた。アンチノミーの云った通りまだチューブに繋がれているままだ。
機体の背面に設置されてる部品から ウィン、とエンジンらしき音が鳴る。

「………、…名前?」
「あ、起こしちゃった?」
「調度にシステムが起動した。すまないが、暫くは身体を起こすことが出来ない」
「そのままで良いよ」

すると彼は私の前に左手を伸ばしてくれた。大きな鋼の掌に身を乗せる。そして其れを自分の顔へと近づけた。カーディナル色の瞳が私を朧気に映し出す。彼の眼は透き通るように綺麗だから鏡になってしまいそうだ。

「え……、わ!」

急に高度を落としたかと思うと、腹部分で私を降ろされてしまった。つまり私は今ブレード・ガンナーに馬乗りしてる状態になってる。

「え、えーと、ブレード・ガンナー?」

こんなに近くになると嫌でも思い出してしまう。ライブラリアン達との話を。赤くなる顔を体内で治まれと制御するが、虚しくも顔面は熱が堪っていくばかり。

「昨日、ライブラリアンから訊かれた事がある」
「い゛!!」
「その様子だと、名前も諮問されたか」
「うん……。 その後ポット投げたけど」

あんの野郎、いつも持ってるあの端末でいやらしい文とか読んでるんじゃないだろうな!明日会ったら壊してやる。

「ライブラリアンの本で読んだ事がある。人間の最高の愛情表現は性交と」
「いやいやいや、違うって! 愛情表現ではあるけど、それはちょっと特殊っていうか一歩はみ出てるというか何というか………」
「人間の愛情表現は、私では成し得ない」
「!」

悲しい声だったが甘えが少し混じってる気がした。

銀色で覆われた指が此方の腕を優しく突く。触れてほしいと催促してるの、かな。人間の腕より遥かに大きい金属指をおもむろに撫でた。冷たい。こんなにも体温が違うのに愛しさが迸る。




「すまない、名前」
「……………なんで謝るの」

私たちの種族が違うのは、どっちの所為でもないのに。

「名前は私を好きでも、アンドロイドにはなりたくはないだろう」
「……それは…」
「私はお前を愛しく思うたびに、人間に憧れ人類として存在するのを望んでしまう。どうして、同じになりたいと思うのだろう」

人間を凌駕する生命はないだろう。私もブレード・ガンナーが人間だったらどうなるんだろうって考えた事はあるけど、私が彼と同じアンドロイドになりたいとは…………。 

でも、ブレード・ガンナーに人間になって欲しいと懇願した事はない。
アンドロイドである彼に惚れたわけで。彼そのものが好きで、彼の事を本気で愛しているからで……ええと、何だっけ。私が思っていた事がなかなか思い出せない!!動悸やらで精神が乱れ思考が鈍ってるんだ。




「しかし 同種族でなくとも共に生きれる」
「そう!それ!!」

思わず身を乗り出した。ブレード・ガンナーは吃驚したように見開く。

「私も、それが言いたかったの!
私はブレード・ガンナーがどんな存在でも、ずっと一緒にいる」
「…………同慶に至れるな」

アンドロイドなのに彼の表情が凄いわかる。これはブレード・ガンナーが人間性があるからかな。



「あ。あとね、愛情表現ってのは結構パターンはあるんだよ」
「パターン?」
「ブレード・ガンナーの口って何所?」
「口は造られていない」
「じゃ、人間と同じとこでいいね」
「!」

人間の口の位置と似た場所。眼の下の中心部に唇をくっつける。私と彼しか居ない物静かなメンテナンス室で、モーターが速まる音が響いた。

「ごめん。嫌だった?」
「…………いや…、違う。驚いただけだ。そこは口ではないが特異な感情が沸く様だ」

彼は自分を 人間とかけ離れたモノと思ってるようだけど、見せる笑顔は下手な人間より人間らしい。

「人間的に言えば、幸せ か……」


SLAM!…ボカ!
SWAAM!…ドガシャア!
KLAAANG!…ガッシャアアアアアアアアアアアアアアン!
アメコミ擬音語


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