バレンタイン


2月14日。

女の子なら誰だって特別視してしまう日だ。そんな日にも私は欠かさず海馬邸に行く。あの子に逢う為に絶えず訪れてるが、本日は特別な心境で赴いた。
すっかり、好きな人に会う乙女の一員になってるけど、私の本命は人間じゃないの。

門を潜って広大なお屋敷のインターホンを鳴らす。

「こんにちは、海馬瀬人さんと今面会できますか?」
「大変申し訳ございません。瀬人様はただ今KCで会議中で御座いまs」
「良くぞ来た名前よ!」

バタバタバタバタ

激しく空気を切る音と吹き荒れる風。 振り返って空を見てみるとヘリが1機飛んでいた。乗っている(ピットを開いて身を乗り出してる)のは至極当然、海馬くんだった。会議中じゃねーのかよ。

「いくぞ!俺をしかと受け止めろ!!」

早まるな。
彼は今にも無重力コートを広げて羽ばたきそうだが、その高さから降りたら確実にお陀仏だ。大音響で会話に難儀しつつも、何とか普通に降りてとお願いする。無事着陸した後、彼は乱れた髪を整え普段の髪型を取り戻した。

「え えーと、今って、会議中じゃないの?」
「そんな事はどうでもいい。上がって行け」

質問に答えてよ。
まあ、この人の事だ。サボったかばっくれたかしたんだろう。 彼の背を追って大理石の廊下を歩き進む。この洋式内部のゴージャスさも随分見慣れたものだ。



「あ!名前だ!」
「こんにちはモクバくん」

いつも談話してる部屋に案内されると、モクバくんがソファーに寝転びながらテレビゲームをしていた。テレビのスイッチを切り此方に翔けてくる。

「はい、二人共。ハッピーバレンタイン」

私は鞄を漁って、取り出した物を海馬くんとモクバくんに贈与した。ブルーのリボンが巻かれてる箱の中身は王道な生チョコだ。簡単美味しいが1番なんだぜー。

「わー!サンキュー名前!」
「名前!何故さっき会った時に差し出さなかった」
「なんか2人きりで渡すのは嫌だった」
「! ……まったく名前め、くえない女だ。2人きりは恥ずかしいからと言ってモクバと同時になど………。必要ない事を仕出かしてくれる。フフフ…」

何かぶつぶつ呟いてるのを無視して、海馬くんのデュエルディスクを起動させる。セットされてるデッキを抜き取りあの子を探す。
いたいた、このドラゴン!

「ぶつぶつぶつぶつぶつぶつ…… !? 何をしている名前!」

お目当てのカードを抜いてディスクへ置く。すると気高い叫び声を挙げブルーアイズのビジョンが、部屋狭しと投影された。

「ブルーアイズ、ハッピーバレンタイン」

先刻と同様チョコを差し出す。そんな私を見て呆れたのか、海馬くんは低い声で言った。

「貴様、脳の具合が正常ではないのか。ブルーアイズはビジョン。チョコなど食べる事など不可能だ」
「いいの。この子の為に作ったチョコなんだから」
「毎度ブルーアイズばかり考えて…偏屈な奴だ」
「海馬くんだってブルーアイズ厨のくせに」

そう、私は海馬くんの持つブルーアイズに夢中なのだ。ここへ来るといつもビジョンのブルーアイズに出会い挨拶をして喋りかけてる。 この為だけに訪れてると言っても過言ではない。



「じゃ、帰るね。ブルーアイズ用のチョコ、食べちゃだめだよ」
「後に俺が食してやる」
「だめ。ブルーアイズのカードの隣に置いておいて」
「名前、抜けた子供の歯は枕の下に置いておけばお金に変わるけど、ブルーアイズの隣にチョコを置いてもお返しに変わる訳じゃないぜぃ」

モクバくんの意味不明な説明にフリーズしたが「とにかく、食べちゃだめ!」と釘を刺して帰宅した。




  * * *




?、 回りが真っ白だ。

あー、これ夢か。
ふわふわして心地良いな。

周りは白いばかりで何もないみたい。自分の手には、今日渡したブルーアイズのチョコがあった。これは、義理(海馬くん達に渡したの)とは違ってドラゴンを模って作った特性チョコ。
絶対に出来ない事だけど、直接渡したかったな。

“好きな人に渡せなかった”そんな女の子顔負けな気持ちになってしまった。いや、私一応女の子だけど。でも、少しずれてる。カードゲームのドラゴンに、渡したかったなんて。

(……)

此処は夢の世界。何でも叶う場所だ。私は頑なに眼を閉じ、念じた。ブルーアイズに会いたい。

(!! ブルーアイズ!)

やはり夢の場所。 眼を開けると目の前に居たのだ。この翼、尻尾、眼。私の大好きな子、ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン。
駆け寄ると、鋭いがどこか優しい眼を私に向けてくれた。

(君の為に作ったの。はい!)

ドキドキした。これは完全に好きな相手と話す時の人間の心中だ。
差し出した物を見詰め、首を傾げるブルーアイズ。ああそうか、このままじゃ食べれない。私は包みを開けて再度チョコをブルーアイズの口へと近づける。

するとブルーアイズは、ぱくんとかぶりつく。元々小さなチョコだったから、あっという間になくなってしまった。
美味しい?と訊くと答えるように唸る。夢と分かっていても私の胸は熱くなる。作って良かった。

(あはは、チョコが口についてるよ…――――)





――――――
―――…

『正義の味方カイバーマンが朝を報せよう!感謝せよデュエリスト諸君!午前7時、起きるんDAー!』

カチッ

この間もらったカイバーマン目覚まし時計に起こされる。せっかく私にとって甘い夢見てたのに、よくも邪魔してくれたな。
腹いせにカイバーマンをぶん殴った後、布団から出て私服に着替えた。向かうは再び海馬邸だ。





インターホン押さず全速前進していたら磯野さんに捕まって不法侵入に扱われそうになったが、モクバくんが通り掛かったおかげで助かった。

「2人とも聞いて聞いて」
「どうしたんだよぉ名前。そんなはしゃいで…」
「あの子、あの子が夢に出てきたの!」
「俺だな」
「違う。あ、これ煩いから返すよ」
「貴様アアアア、折角くれてやったのに首をもがして返すとはどういうことだ!!」
「そんなことより、ブルーアイズが夢に出てきたんだよー!」
「へー、良かったな!」
「俺も出たのだろう?わかるぞ、ブルーアイズの主だからな」
「出てないよ」
「ぐぬぬ…」
「ところで、あのチョコどうした?まぁどうせ海馬くんが食べちゃったんだろうけど」
「失敬な」
「俺達ちゃんと置いといたぜぃ? いやでも……妙な事に…」
「? 何かあったの?」
「今朝みたら、なくなってたんだ」
「え?」

なくなってた?マジで?磯野さんが食べたとかじゃないの?
私は、今朝みた夢を思い出したが、あんなのただの夢だ 関係ない と首を振る。

「昨日ここには磯野も入れてないし…」
「本当に海馬くんじゃないの?」
「貴様は何故そこまで俺を貶める?あれか、好意を隠す為に棘な事を云ってしまうタイプだったのか………ぶつぶつぶつぶつ」

何があったか知らないけど、折角ブルーアイズに作ったチョコが消えてしまったのは悲しい。だけど私は淡々としてる。原因は見た夢の所為だろう。

ともかく、ブルーアイズを見なくては。もはや、姿を見なきゃ1日が始まらないという中毒になっちゃってるな……。

「勝手に召喚するなと言っているだろう!」
「減る物じゃないんだからいいじゃん!」

葛藤しながらも、召喚成功。今日もブルーアイズはカッコイイ――――― …

「「「!!」」」

3人同時に驚いた。

ブルーアイズの口元には私があげたチョコらしき破片が付いていたのだ。 
だがブルーアイズは舌なめずりすると、欠片の姿は消えてしまった。ブルーアイズは白い。チョコレート色の物があった事は見間違いになんか出来ない。

「今の、見た!?」
「あれって名前が作ったやつ?」
「ば、馬鹿な!非ィ科学的だ!!」

私達が見たのはビジョンの不具合なのか、はたまたチョコだったのか。その謎は、これから先もずっと不明瞭なままで、心に残る。

Happy Valentine

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