高鳴る心音がうるさい


決闘遂行中、凛々しい表情でカードを見つめるマスターは魅力的だ。醸し出される闘志は男性デュエリストにも引けを取らない。その表情の内で、多種多様の作を練って居るのだろう。

マスターに拝謁できるのは、自分が手札に来た時とモンスターとして場に召喚された時のみ。だけれど、手札に引かれる前にデュエルが終われば、マスターと逢えずじまいとなり山札の中で身を潜めるだけ。逢えない決闘も多々ある。
その時身に染みるのは、今生きて行く中で最大の愁い。牢獄に閉じ込められている気分になるのだ。

ふと思う。
この感覚は、そもそも何なのだろう?と。

彼女を想うと、心臓がうるさくなり胸の奥がぎゅっと閉まって苦しい。まるで呼吸が下手になったかの様に。
感情の名前も知らない。いつ芽生えいつから俺を苛み始めたのかも、釈然としていない。



そんな事を、朝な夕な考えていたある日。
俺はマスターによって山札から引き抜かれた。じっと見つめられ黒い瞳には自分の姿が映っている。
う、この感覚。まただ。高鳴る心音がどくどくと体内に煩く響き始める。こうなればもう手に負えない。

「名前、何見てるの?」

マスターの友人だろうか?横から俺を覗き見て来た。

「【エルフの剣士】って言うんだ。
随分と大事そうにしてるねー」
「だって、私の大好きなカードなんだもん」



その一言で、息が止まるかと思った。

今までのとは格が違う、強く脈打が打たれ締め付けられる心臓。たったあれだけの台詞で死に到るかの衝動。

さらに、その言葉を発した彼女は決闘中の凛々しい表情ではなく、柔らかい笑顔で居た。あんな面持ちをするマスターを御目にかかるは初めてだ。
………目上のお方に言うのは、失礼かもしれない。なんて言うか、凄く、可愛らしい表情だった。

―――……ああもう、うるさいぞ心臓。気が散ってマスターの顔を見れないじゃないか。
誰かこの動悸の治め方を教えて欲しい。序でにこの感情の名前も教えてくれると有難い。

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