Chapter 2
寝台にて丸くなっていた少女が瞼を持ち上げた。硝子玉のような蒼の目が、両手で包みこむように握られていた指輪を映す。冬の夜を凝らせた薄闇が、鎖に繋がれた指輪を研ぎ、艶を閃かせた。
少女が身を起こすにつれ、癖のない黒髪も持ち上がる。床に爪先をおろしながら、少女は寝乱れた寝巻きの胸元を掻き抱いた。薄絹の絡まる少女の指を、首飾りにされている指輪が叩く。裸足の足裏を夜気が刺す。借り物の寝室の扉は閉じられていたが、その先で熾っている熱の瞬きが絨毯と扉の隙間から漏れていた。
縋るように覗きこむように、少女は静かに扉を開ける。あたたかさを絶やさぬために炎を踊らせている暖炉と、肘掛けに金緑の癖毛が載った長椅子の背を、少女は見た。ゆえに、少女は目をしばたたく。黒髪に飾られた怪訝さの滲む横顔を、炎の熱が濡らしていた。
鎖が流れ、少女の胸元で指輪が揺れた。背凭れに両手を置き、少女は長椅子に横たわっている青年を覗きこむ。肘掛けを枕とし、長椅子から転げ落ちないよう――いささか失敗してはいたが――四肢を窮屈そうに折り畳んで、少女に横顔を晒しながら青年は眠っている。薄い唇から零れる吐気は希薄で、瞼を落とし臥する様は彫像のようだったが、ゆるめられた襟から覗く胸はかすかに上下していた。
- 146 -
[←] * [→]
bookmark
Top