Chapter 1
「この先に立ち入ることは禁じられています」
白亜の回廊を護るのは帝都警察。進路に立ちはだかるその黒の間を通り抜け、青年は足早に歩を進める。
当然のことながら進入者を止めようとする黒の喉元に、
「私も止めようとはしたんですけれど、持ち前の頑固っぷりを発揮されてしまいましてね。まぁ、たまにはあの人の我が儘も聞いてあげてください」
得物の切っ先を突きつけて銀髪の従者は笑う。
「馬鹿を救えるのは、おそらくは、馬鹿だけなんですから」
先を急ぐ主の靴音は確実に遠のいてゆき。
苛立ちとも怒りとも、絶望ともつかない笑みを浮かべたまま、従者は主とその異母兄のためにすべての障害を足止めする。
「陛下」
皇城の一室にてアクィーノ侯ヴァレリーアスと談笑していた女帝の背後にて、金髪の従者がその気配を現した。従者はその長身を屈め、前を向いたままの女帝の耳許にひとつの報告をもたらす。
数度の瞬きと、蒼がゆらぐ一瞬の動揺。
目の前にて優雅に茶を嗜む叔父を、姪は上目遣いに睨めつける。
「どうした?」
悠然と微笑む叔父に、膝の上に置いた両手に震えるほどの力を篭めて微笑を向けると、
「失礼するわ」
椅子から立ち上がったラヴェンナはヴァレリーアスを一瞥することもなく踵を返した。そして冷ややかな回廊へと歩を進める。
「来なさい、ペレラ」
振り返ることなく主は従者を呼び、
「それは捨て置いてかまわないわ」
ひとり置き去りにされたヴァレリーアスは、姪が出て行った扉をのんびりと眺めつつ、その唇に描かせていた笑みを更に深くした。
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