Epilogue


「リラ?」

 頬を強張らせているのか、頬が動くことを失念しているのか、無表情に己を注視してくる少年の傍らにダリオが立ったことで、青年の憶測は確信へと変わる。困ったような、はにかむような、気恥ずかしさと嬉しさとを孕んだ微笑を青年は浮かべた。

「背が伸びたな。すぐには判らなかった」

 長椅子に立て掛けてあった杖に手を置き、腰を浮かせた青年の耳を、近いところから放たれた声が叩く。

「先生!」

 リラの腕が青年の薄い背中に回った。押し倒されるように、青年は立ち上がることなく長椅子に腰を下ろし、仰け反るように、背凭れに背中を押し付ける。行き場を失った杖が、下草の艶めく地に転がった。

「何してたんですか、何してるんですか。いつも怪我ばっかりじゃないですか、馬鹿なんですか? ダリオさんなんか、ものすごく怒ってたんですよ」

 嗚咽とも憤りとも歓喜ともつかない声が青年の耳もとで撒き散らされる。宥めるように少年の背中を軽く叩きながら、青年は困惑を滲ませた目を従者へと向けた。母子の傍らに佇んでいた従者は、主の眼に気づくと、底抜けに晴れやかな笑みを浮かべてみせる。後ろめたそうに、主は眼を逸らした。
 風に遊ばれた下草がさざめきを奏でる。重なる葉の隙間から零れ降る光が煌き、緑陰がゆらめいた。風に掻き混ぜられた茂みがきらきらしさを撒く。瑞々しい緑を撫でて駆け抜けた風は、晴れ渡った蒼穹へと吹き抜けていった。

- 325 -



[] * []


bookmark
Top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -