ジョーイの私に対する態度は見るからに他のサバイバーとは違っていた。ある程度恋愛を経験してきた私からしたらジョーイの気持ちは明白だった。信じられない、私の勘違いであってくれと思った時もあったが彼の口から直接「好き」と聞かされ「ああ、やっぱり」と納得した。積極的で自信過剰な部分もあるジョーイは返事も待たずして私の体を抱き寄せ愛おしむように頬を撫でた。柄にも無く照れた私は必死に抵抗したが、彼は力を緩めなかった。
「ジョーイ」
「ジョーでいい」
「アンタわかってんの?ジョーイはキラーで私はサバイバーなんだよ。そんな、普通の恋愛とか無理に決まってる」
「名前はおばさんだから仕方ないかもしれないけど、もっと脳味噌柔らかくして考えた方がいいんじゃね」
「私ケンカ売られてる?」
「サバイバーだからとかキラーだからとかもうそんな域じゃないんだよ」
そう言ってジョーイはきつく私を抱きしめた。まだ告白の返事もなにもしてないよと呟けば「名前が俺を好きになったら返事して」と言われた。こんな生意気な年下彼氏なんかごめんだね、とジョーイの肩に頭を預けると彼は嬉しそうに私の頭に頬を擦りよせた。
私とジョーイのやり取りを見ていたのか、エンティティの不機嫌そうな声が聞こえた。そして私はその日を境に霧の森から出る事はできなくなった。
ジョーイにリージョンのメンバーを紹介された時、始めこそメンバー達は驚いていたものの時が経つにつれ私という存在にも慣れていった。ジュリーもスージーも私が同性で年上だからか色々な話を聞きたがった。特にスージーは年相応、恋バナをしたがり私がどんな恋愛をして来たのか質問責めされ、渋々元カレ達の話をした事がある。その話を聞いていたジョーイは不機嫌ダダ漏れで無言になり一日私を部屋から出さなかった。そういえば高校生の頃に付き合ってた男も独占欲すごくてね〜、と言えばジョーイの機嫌は氷点下にまで下がり私を荒々しくベッドに押し倒した。あーあ、年下をからかうのは楽しいや。フフ、と笑えばいつのまにかマスクを鼻までずり上げたジョーイにキスをされた。満更でもないんだ、私。
私はリージョンのリーダー、フランクが苦手だ。彼の私に対する態度が怖く冷たいからだ。儀式以外で初めて顔を合わせた時、何事もなく「ジョーがマジで惚れた女なら歓迎するよ」と握手を交わした。そこに悪意はなかったはずだ。そりゃキラーとサバイバー、仲良しこよしするなんて可笑しな話だしフランクの冷たい態度も頷けるが、日に日にその態度はひどくなっていく。若い子の考える事はわからない。
私が何かしたとか心当たりがあるはずも無く、気不味い空気のままフランクと二人きり暖炉の火を眺めている。
「あー、フランク?」
「…」
私の呼び掛けにフランクはゆっくりと首を傾げた。返事も無しだ。
「ジュリーとスージーは?」
「…さあ。儀式じゃね」
「ジョーは?」
「知るかよ」
やっぱり若い子の考えてる事はわからない。フランクはジョーイとケンカでもしたのだろうか。思った事をそのまま質問すれば、フランクは少し間を置いて否定した。
「フランクは私がサバイバーだからそんなに、えーと…冷たいの?」
「サバイバーって…お前もうキラー側だろ」
「そ、そんなこと…そうなの?だからエンティティは私を霧の森に閉じ込めたの?」
「知らねえよ」
私の方を見ずに受け答えするフランクに若干腹が立ちながらも我慢をする。多分フランク以外の皆は儀式中だろう。はあ、と小さくため息をつく。今の内にフランクと私の間にある蟠りをなんとかしたい。
「フランクって私のこと嫌い?」
「…なんで」
「え、なんで?!えー、冷たいからかな」
「へー」
なんなんだこいつは。私がキラー側についたんならお前をメメントモリしてやろうか。フランクを睨みつけるがやつは暖炉の火に夢中だ。
実は前々から少し思ってる事があった。フランクは私がジョーイの話題を出すと決まって不機嫌になる。多分、ジョーイは気付いていない。フランクの態度に敏感な私だけが気付いていると思う。今の「嫌い?」って質問にだって否定も肯定もしなかった。
「…フランク。違ってたら本当に申し訳ないんだけど、聞いていい?」
「…」
「フランクって私のこと好き?」
フランクの肩が大きく揺れた。あ、この反応は
「マジ?」
「…なんだよ。何も言ってねえだろ」
「あ、うん。ごめん」
「は?」
「いや、ごめんっていうか。ちょっとびっくりしちゃって」
「…うぜ」
「そうなんだ。ふふ、フランクってば。どうしようモテモテだね私。あはは」
「なにそれ。煽ってんの?てかお前ジョーと付き合ってんだろ」
「お前じゃなくて名前ね。付き合ってないよ」
「はあ?」
まだ告白の返事してないもの、と言えばフランクは拍子抜けしたように私を見る。なんだ。ちゃんと私のこと見れるじゃないか。話をする時はちゃんと相手の目を見て話さないとね。
というものの私の方こそ拍子抜けだ。フランクには嫌われているとばかり思ってたから、まさかその逆だとは。
「付き合ってないんだな」
「まあ、年下だと勇気がいるのよ。私も良い年だし…今まで付き合ってきた人全部年上だからね」
「お前それやめた方がいいと思うぜ。昔の男の話とかすんの。おばさんくさい」
「…ショック」
「どうせジョーの前でも言ってんだろ」
「すごいね。わかっちゃった?だってジョーからかうの楽しいし」
「最低」
「だよね…最低だよね…ジョーはなんで私みたいなのが良いんだろう?」
「…ジョーはやめて俺にすればいい」
「ええ…」
いつのまにか距離を詰めてきていたフランクがマスクを取り、私に覆い被さる。あ、本気の顔してるなあとどこか冷静に考えてしまった。
「それに若い方が元気で良いと思うぜ」
「なにそれ?どこが元気だって?」
「どこだと思う?」
「質問してるのこっちなんだけど?」
冷たい態度は何処へやら。蟠りをなんとかしたいと思ってはいたが、これは… 今後の事を思うと地獄である。ソファに座る私に馬乗りになっているフランクを見上げ堂々とため息を吐く。
これがモテ期ってやつなのだろうか。
20190123