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いつものように霧の森に迷い込み、目の前にあった発電機に吸い込まれるように手を伸ばす。いつからだろう。この異様な状況にあまり恐怖心を抱かなくなったのは。これが日常だと思ってしまうようになったのは。初心を忘れるな名前。やつらは殺人鬼だ。

薄れていた警戒心を無理矢理覚まさせ、修理をする手を止めずに周囲を見渡す。


「…」


少し離れた木の陰から覗く白いマスクと目が合った。あのストーカーは一体いつから私の事を見ていたのだろう。ため息を吐いて修理に集中し、ちゃ駄目だろう私!ザ・シェイプことマイケル・マイヤーズが私を見ている!何を悠長に修理をしているんだ!

私は腰を上げて持っていたライトをマイケルに向ける。照準を合わせ、正義の閃光を放った。


「何見てんだー!」


マイケルは眩しそうに顔を背向ける。よし!痴漢を撃退した。私は地面を蹴り勢いよく駆け出す。背後を確認すると殺意バリバリ怒り心頭のマイケルが私を追いかけてきていた。

まずい。とりあえず板があるポジションに逃げ込まないと。走りながら周囲を確認する。無い。板が全く無い。仲間が使ってしまったのだろう。なら窓枠!駄目だ。近場に強いポジションが無い。シェルターウッズに固有建築は地下がある小屋しかなくどうやら私はその小屋とは真反対側にいるらしい。

これ、まずいのでは?


「マイケル!マイケル話し合おう!」


走りながらマイケルに声を掛けるが、どうやら彼は私の話を聞くつもりは無いらしい。


「マイケル!話せばわかる!謝るから!」


マイケルの呼吸音が私の耳を掠めた時だ。強い力で肩を掴まれ、無理矢理マイケルの方へ振り向かされる。「ご、ごめんね?」とウインクしながら謝ってみたが無視をされた。マイケルは私がもつライトをじっと睨みつけている。


「あ、ライト?ライトが嫌だった?そうだよね。眩しかったよね。私ったら本当、昔から空気読めなくて。その、マイケルいつも薄暗い場所にいるからたまには光を浴びたいのかなって。お節介だったね。ごめんね?」


私の肩を掴む力が少し弱まる。


「ほら!こんなライト捨てるから。ポイ!はい、捨てたよ。怖かったね。もう大丈夫だよ」


マイケルは草むらに転がるライトを見て、うんうんと頷いた。そして私の頭をぎこちなく撫でる。何をしているんだこの殺人鬼は。私の方こそ何をしているんだ。

マイケルは私の頭を一頻り撫でた後、私を抱き上げて歩き出した。


「マ、マイケル?どこいくの?」

「…?」


私の問い掛けにマイケルは首を傾げて、周囲を見渡す。そういえば他のサバイバーはどうしたんだろう。儀式が始まってから一度も会っていない。

目の前にフックが見えたがマイケルは興味が無いらしくそのまま通り過ぎる。私を吊るす気は、無い?今の状況は一体なんなんだ?


「…マイケル、吊るさないの?」


うん、とマイケルは一度頷く。少し歩いて足を止めたマイケルは私を片手で抱きながらゆっくりと腰を下ろした。なんだなんだ、と地面に伸びるマイケルの手の先を見ると小さくて可愛らしいお花が。マイケルはその花を地面から引き千切ると腰を上げて私に差し出す。マイケルが一体なにを考えているのか知りたくてマスクの奥の瞳を覗き込むが、いつもとなんら変わりない。


「えっと、お花くれるの?」


マイケルはまた、うんと頷いた。不気味だが断ったら何をされるかわからない。ありがとう、と言って花を受け取るとマイケルはどこか嬉しそうだった。

それからはシェルターウッズを2人で練り歩き(私はずっとマイケルに抱っこされていたけど)、マイケルは何か目ぼしいものを見つける度に私と情報を共有したがった。メメントモリされた仲間たちの死体を指差してた時はさすがに肝が冷えたが、私はそこで自分の置かれてる状況を理解した。私以外の仲間はみんなマイケルに殺されて残っているのは私だけ。

シェルターウッズは狭い。一周するのにそう時間はかからなかった。マイケルは私を中央にある大きな木の下に降ろした。大人しく座っているとどうも目の前でじっと立つマイケルの存在が威圧的すぎて居心地が悪い。我慢ができなかった私は「…隣座ったら?」と声をかけるとマイケルはゆっくりと私の隣に並び、私にぴったり寄り添うように座った。


「…やっぱり殺人鬼はよくわからないや」


はあ、と軽くため息をつく。私の独り言にマイケルは首を傾げたが見なかったふりをして木に背中を預けた。硬くて背中が痛い。

地面ばかり見ていた視線を上げれば空には満点の星空。「こんな状況でも空は綺麗なんだな」と可愛げのない感想が出てきた。マイケルを見ると彼も空を見上げていた。


「マイケルは星好き?」


私の問いにマイケルは首を傾げる。あまり興味がないらしい。


「ふうん。私ちょっと眠たくなってきちゃった」


恐怖心も緊張感も何処へやら。ゆっくりと目を閉じて体の力を抜く。

その時だった。少し風が吹いたと思った瞬間、顔の隣で大きな音がして大木が少し揺れる。何事かと脳を覚醒させて目を見開くと目の前には白いマスクと綺麗なエメラルドグリーンの瞳。どうやら私はマイケルに壁ドンというものをされているらしい。


「マイケル?!え、近い近い!どうしたの!」

「…」

「え!わかんない!誰か通訳…ローリー呼んできて」


困惑する私を無視して、マイケルは私の顎を鷲掴む。そしてマスクを被ったまま、マイケルは自分の唇を私の唇に押し付けた。この殺人鬼、力加減が苦手らしい。鷲掴みされた顎も押し付けられている唇も、痛い。

とにかく、これはキスだ。私はマイケルにキスをされている。小学生がするような押し当てるだけの下手くそなキス。

ハッと我に返りマイケルの肩を少し力を入れて叩けばやっと下手くそなキスから解放される。


「…へえ、マイケル・マイヤーズもこんなことに興味あるんだ」


男なんだね、と皮肉たっぷりに言えばマイケルはまた顔を近付けてくる。


「私が教えてあげる」


だから逃がしてね、と続く言葉は言わなかった。

マイケルのマスクに触れれば、彼は嫌そうに身動ぎした。「大丈夫」と子供をあやすように頭を撫でると大人しくなり目の前の殺人鬼は私のされるがままになる。親指をマスクの中に入れ、ゆっくりと鼻上までずり上げる。マイケルの胸元に体を寄せると彼の鼓動が伝わってくる。

マイケルの首に腕を回し、への字に閉じられた唇にキスをして舌でマイケルの唇をノックする。閉じられていた唇がゆっくりと開かれ、舌を進入させる。あ、すごい。私ってば殺人鬼とキスなんかしちゃってる。

マイケルの口内を縦横無尽に暴れ回る私の舌に彼も応戦する。唾液が垂れても御構い無しだ。誰の吐息で誰の唾液なのか。マスクの奥のエメラルドグリーンを覗けば、その目は細められ私を捕らえて離さなかった。


いつのまにかマイケルに馬乗りになっていた事に驚き体を起こそうとするが、マイケルがそれを許さなかった。私の後頭部と腰に手を回されてしまいガッチリと固定されてしまった。どうやら私とのキスが余程気に入ったらしい。もう小学生のようなキスでは無くなっていた。


「んっ、マ…マイケル…待って…」

「はっ…はあ…はあ…」


ようやく唇を解放され、肩で息をするマイケルを見下ろす。マイケルの頬を包み込み、鼻先にキスをする。ああ、なんだかこの殺人鬼が異様に可愛く思えてきた。

こんなの殺人鬼やサバイバー以前にただの男と女じゃん。と鼻で笑い、目の前の快楽の海に2人 身を沈めた。


20190118


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