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この日、私はいつも通り寝坊してアルタイルに叱られていた。


「今日は何故寝坊した」

「よ、夜更かしを少々」

「ほお?昨日言わなかったか?明日は任務があるから日が昇る前に支度を済ませろと」

「言っていました…」

「任務よりも優先しなければならない事があったと?」

「はい…いいえ」

「どっちだ」


アルタイルはいつもより手短に説教を済ませた後、「阿保弟子」と私の頭を叩いた。ここ最近で一番いい音が出た気がする。

ああ、師の言う通り私は本当に阿保だ。こんな大切な日に寝坊してしまうなんて。今日はアルタイルの誕生日だと、マリクから聞いた。ロマンチストな私は1ヶ月ほど前からアルタイルに告白をする計画を立てていたのだ。そうだ。私は阿保な上に頭がめでたい。それはアルタイルも知っている。

アルタイルに気付かれないように溜息を吐き馬に跨る。既に馬に乗っていたアルタイルは私を見て馬を走らせる。


「お前のせいで計画が変更になった」

「私のせいで計画が変更になったんですか?」

「やまびこかお前は」


1ヶ月間かけて練った師に告白するぞ計画の内容は至ってシンプルだ。まずアルタイルのご機嫌メーターをマックスにする。その状態を維持し、そして愛の告白をブッこむ。「こんなできた弟子に告白されるなんて俺は幸せ者だ。答えはもちろんYESだ」となるはずだったのに!早速アルタイルの機嫌は大暴落!

今日の任務を大成功に終わらせるしかない。いつもなにかしら失敗をしてアルタイルに怒られているけど、何が何でも成功させてやる。寝不足でズキズキと痛む頭を振り気合いを入れて自ら頬を叩く。

その様子を見ていたアルタイルが眉間に皺を寄せた。


「おい名前。なにを企んでいる」

「え!いえ、なにも!」


任務の計画が変更になり多少時間に余裕ができたのか、前を走っていたアルタイルの速度が落ち私の隣に並ぶ。


「何故夜更かしをしていた」

「それは言えません!」

「なに?」

「あっ」


鷹のように鋭い目が私を睨み付ける。アルタイルが馬を止め、私もおずおずと馬を止める。


「し、師よ…任務に遅れます…」

「昨日の夜、何をしていた」

「なにもしてません…ただ眠れなくて」

「誰といた」

「ひ、1人です!」

「本当か」

「本当です!」


まだ疑っているのかアルタイルは舌打ちをして、馬を走らせる。私も慌ててアルタイルに着いて行く。

しまった。アルタイルのご機嫌メーターが氷点下だ。このままじゃ告白でころか暗殺されてしまうかもしれない。

ギスギスした空気のまま、私とアルタイルは馬を走らせた。




任務は、珍しく上手くいった。いつもは敵を殺める事に躊躇するが、今回はアルタイルのご機嫌メーターを少しでも上げるべく、頑張った。かつてないくらい頑張った。頑張りすぎて左腕と脇腹を少々深く切られてしまったが、頑張ったのでアルタイルに褒めてもらおう!

フラフラした足取りと支部に戻ると、別の任務から戻っていたアルタイルが目を見開いて私の体を支えた。


「名前!」

「師よ!名前はやりま、キャー!!なに脱がしてるんですかー!」

「報告は後でいい!どうせ失敗だろう。まずは手当てだ」

「成功しました!見てくださいこの真っ赤に染まった羽根を!」

「…………まずは手当てだ」


あれよこれよとアルタイルに服を脱がされ手当てされていく。


「師よ、私頑張りましたよ」

「ああ、よくやった。こんな深傷を負って…お前らしくない」


包帯を巻き終え、アルタイルの手が私の頭を撫でる。急いで服を着てアルタイルに向き直り背筋を正そうとしたが脇腹の傷が痛み蹲る。頭上からアルタイルの溜息が聞こえた。


「なにをしてるんだ…」

「師よ…いえ、アルタイル。お誕生日おめでとうございます…いてっ」

「は?」

「マリクから聞きました。本日はアルタイルが生まれた日だと…」

「…」

「生まれてきてくれて、ありがとうございます。私はアルタイルと出会えて、とても嬉しいです…あ、痛い…血が滲んできた」


痛む傷を手で押さえながらゆっくりとアルタイルを見上げる。あ、アルタイルが固まってる。


「あと、私はアルタイルが好きです」

「おい、取ってつけたように大事なことを言うな」

「1ヶ月ほど前からこの日のために色々考えてたんですが、上手くいきませんね。さっきも寝不足でちょっとうたた寝してたら脇腹を刺されちゃ、あっ」


口が滑った!アルタイルに叩かれるだろうと慌てて頭をガードするが衝撃は待てども来なかった。そろりとアルタイルを見ると、くつくつと喉を鳴らし笑っていた。


「全く、お前は…」

「す、すみません…師よ」

「うん?もうアルタイルとは呼んでくれないのか?」

「え?や、呼びます!」

「名前」


アルタイルにきつく抱き締められ目の前が真っ暗になる。こ、これはなかなか良い感じなのでは?自分の鼻息の荒さが気になるが心臓が、落ち着かない。


「ありがとう、名前。お前は本当に愛しいな」

「ア、アルタイル」

「お前が一人前になるまで俺の気持ちは言わないと決めていたが、お前から言われてしまっては仕方がない。俺も名前が好きだ」

「アルタイル…!好きです!愛してます!任務頑張ります!寝坊しないように気を付けます!立派なアサシンになります!」

「ああ、そうしてくれ。ちなみに昨日の夜は本当に1人だったんだな?」

「え?いや、どんだけ疑うんですか。1人だと言ったじゃないですか」

「…他のやつに聞くか」

「すっごく疑いますね?!」



この一連の流れを見ていた支部長、マリクは静かに舌打ちをした。



20190112
(ハッピーバースデーアルタイルさん!)


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