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夢を見た。オクタンと私が恋人になりキスをしていた。彼の事をそういう風に意識していなかっただけに、目が覚めてからの罪悪感は凄まじかった。まさか私は自覚していなかっただけでオクタンにそういう感情を抱いていたのだろうか。どうも彼を意識してしまって調子が狂ってしまう。

目の前で義足のメンテナンスをするオクタンを見る。キュン、と少女漫画ばりに胸がときめき思わず後ろに一歩後退る。何だこれは。今朝の夢のせいだ。これは、私の本当の気持ちじゃない。オクタンは良い友達だ。それ以上の何者でもない。


「…どうした?名前」


私の様子をおかしく感じたのかオクタンが義足を触る手を止め私の顔を覗き込んできた。


「うう!」

「名前?!」


思わず胸を抑えて倒れる。こんなの嘘だ。私は今、白昼夢の中、学生の頃の初恋の彼にオクタンを重ねているだけだ。彼とオクタン、似ても似つかないけれど。私はそのまま瞼を閉じて意識を手放した。


何故こうもオクタンを恋愛対象として見ることを否定するのか、わからない。オクタンと友人でいる今の関係は心地いいが、恋人として彼と接しているところは想像できないのだ。夢のように私に甘い言葉を囁きキスをする、オクタンは私にとってある意味恐怖の対象でしかない。なんてことを言ったら彼に失礼だろうか。

ゆっくりと瞼を上げると殺風景な自室の天井が見えた。彼がジャンプパッドで飛んだ時に付けた傷が目に入り鼻で笑う。部屋でウルト使うなよ…オクタンとは良く宅飲みする仲だ。お互い遠慮無く接しあえる仲だと私は思っている。恐らくオクタンが私を自室まで運んでくれたのだろう。後でお礼を言わないとな。水を飲もうと起き上がるとオクタンが椅子に座り私を見ていた。驚いてベッドから転げ落ちてしまったが、慌てて体を起こしベッドに戻り蹲る。


「…おい、今日の名前おかしいぞ」

「べ、別におかしくない」

「いやおかしいだろ」

「おかしくないって…オクタンじゃないんだし」

「どういう意味だよ」


オクタンに外に出て行けと控えめにドアを指差す。オクタンは私の指を見てその指されている方向へ視線をゆっくりと辿っていき、また私に視線を戻した。私が言いたい事は理解できたんだろうが、オクタンは椅子から立ち上がると私の隣、同じベッドに、ドカリと腰を下ろした。


「なに」


俯く私の耳元で少し怒っているオクタンの声が聞こえた。なにって、なに?なにが?


「オクタン」

「だから2人の時はオクタビオでいいって言っただろ」


この前、確かに2人で宅飲みしている時に言われた。その時はオクタビオと呼んでいたが、ふと思った。何故わざわざ本名で呼ばなければいけないのか。今まで通り「オクタン」でも別に支障はないだろう。との考えに至り、私はオクタン呼びを貫いている。それにオクタンの方が短くて呼びやすい。


「オクタンはさ、」

「オクタビオ」

「…オクタンは」

「オクタビオ」

「もう!なんなの!オクタビオ!」


俯いていた顔を上げてオクタンを見ると口元のマスクだけ外して私を真っ直ぐと見ていた。ベッドに卒倒した。


「寝るな。俺がなんだよ」

「マスクつけてよ!」

「は?いつも名前の前じゃ外してるだろ」

「そ、そうだっけ?」


とりあえず水を飲もう。別にオクタンから逃げようとしているわけではない。私は水が飲みたいだけだ。ベッドから立ち上がるとオクタンも立ち上がる。


「なんで?!いいって、座ってなよ!なんなら義足外して寛いでていいよ!」

「水飲みに行くんだろ?まだ体調悪いかもしれねえし支えるって」

「や、やめてよお」

「つうか俺が何?」


水を飲むのを諦め椅子に腰を下ろす。先程までオクタンが座っていた椅子だ。まだほんのりと温もりを感じる気がする。待て。やめろ。何だこの変態的な思考は。思わず机を殴りつけ、痛みで悶える。意識しすぎだ。思春期の中学生か私は!


「名前…アジャイに診て貰えよ…」

「あ、ああ…ライフラインね。そ、そうだね。診て貰おうかな。じゃあ今日はもうお開きということで」

「俺も着いてくから」

「なんで?」

「逆になんで?」


駄目だ。キリがない。これも全部、夢のせいだ。机に肘をつき頭を抱える。


「オクタンは」

「オクタビオだっつっただろ」

「…オクタビオはライフラインのこと意識した事とかある?」

「は?」

「そういう…恋愛的な意味で。ほら2人って旧友同士だしそういう事があってもおかしくないじゃない?」

「ねえよ」

「へ、へえ」


ちょっと安心してしまったじゃないか。顔を上げてベッドに座るオクタビオを見る。バチリと視線が絡み慌てて顔を背けたが、いつのまにか目の前に立っていたオクタビオに顎を鷲掴みにされ無理矢理視線を合わせられる。視線と言っても彼はゴーグルしていて目は見えないけど。


「なあ、俺のこと意識しすぎだろ。好きなら正直に言えよ」

「は、は〜?!自意識過剰なんじゃないの?やめてよ!勘違いしないでよね、別にオクタビオの事なんて好きじゃないんだから!」

「典型的なツンデレやめろ」


オクタンは私の顎から手を離し、私の脇下に手を入れて小さい子供のように私を抱き上げる。そしてベッドに座らせて彼も隣にピッタリと座る。そのまま腰を抱かれ逃げ場を塞がれてしまった。

…観念して夢の事を話そう。それでドン引きされたらそれまでだ。腹を括ろうじゃないか。


「…ドン引きしないで聞いてくれる?」

「多分」

「今朝見た夢にオクタビオが出てきたんだよね」

「マジ?」

「ここからが問題なんだけど、あー…私とオクタビオが恋人で…キスしてた」

「…」

「引いた?引いたよね。わかるよ。その夢見てからムズムズして仕方ないんだよね。でもきっと大丈夫。数日後には戻ってるから。はーほんと笑っちゃうよね」

「俺は毎日、夢に名前が出てきてるけど?」


は?と間抜けな顔でオクタビオを見るが、どうやらふざけてないらしく至って真剣な表情をしていた。やばい。変な汗が出てきた。この部屋暑くない?熱いのは私の顔だ。


「い、いいよ。気遣わなくて」

「いや、マジ。つうか嬉しい」

「ええ?気持ち悪くない?」

「名前の事が好きだから、気持ち悪くねえよ」

「やめてよ…これじゃ夢と同じだって。困る…」

「もっと困れよ」


「好きだ、名前」とオクタビオは私の耳元で愛を囁き、獣のように私の唇に自分の唇を押し当てる。食べられそうな勢いに私はされるがままになりベッドに押し倒される。足元でオクタビオの義足がカシャリと音を立てた。こんなオクタビオ知らない。こんな自分も、知らない。なのにこの幸福感はなんなんだろう。


「名前」


熱がこもった声で私の名前を呼ぶ。オクタビオの唇が離れ酸素を求めるように大きく息をすると、首元に違和感を感じた。オクタビオが、キスマークをつけている。「そこ、見えちゃう」と言うと「知ってる」と言われ噛み付かれる。痛みで声を上げると歯型が付いたであろうそこをオクタビオはゆっくりと舐め上げ、鋭利な歯を見せニヤリと笑った。

ああ、このままオクタビオに食べられてしまうんだなと夢現、瞼を閉じた。



20190503



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