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元々 私を振った元恋人を見返そうと参加したこのゲーム。徐々に戦力をつけ声援の数も増えてきた私に「名前おめでとう!お祝いがしたいから今夜2人きりで会えないか?」とヘラヘラ笑いながら言った元恋人の頬に拳を叩きつけた日、私は仲間と共にチャンピオンに輝いた。

いつのまにか元恋人の事なんてどうでもよくなっていたんだともしみじみ思う。共に戦う仲間と切磋琢磨して勝利を掴みとり喜びを分かち合う事がこんなに気持ちの良い事だなんて知らなかった。今思えばあんな器の小さい男の事を理由に戦っていたのが馬鹿馬鹿しく思う。さようなら、私の心に貴方はもういない。

共にチャンピオンを手にした仲間、パスファインダーとミラージュと共に酒を酌み交わす。パスファインダーは…オイルとか飲むのかな?あまり気にしない事にした。


「名前、明らかにいつもより飲み過ぎだよ」

「いいじゃん。今夜は無礼講なんだから」


もう終わり、とパスファインダーが私から酒を取り上げる。信じられない!と絶句しながらミラージュを見れば何故かパスファインダーを褒めていた。まあいいか。後でパスファインダーの目を盗んで飲もう。


「でもよかったね。これでパスファインダーの創造主が見つかれば最高だね」


机に突っ伏しながらパスファインダーを見上げると キュイン、と大きなレンズが音を立てて私を見下ろした。へらりと笑うとパスファインダーの硬い手が私の頭を撫でる。


「ああ〜、もうやめてよパスファインダー。元彼の事思い出しちゃったじゃん」

「名前ってまだ未練あるのか?」


ニヤニヤと聞いてくるミラージュに中指を立てると、パスファインダーが「コラ」と私の頬を軽く抓った。私に対してだけどこかお母さんなんだよな。


「未練は無いけど楽しかった思い出はそう簡単に消えるもんじゃないの」

「へえ、そういうもんかね」

「…誰か別の思い出で上書きしてくれたらなあ」

「名前って酔っ払うとポエマーになるよな」

「あ、そうだ。ねえパスファインダー、キスしようよ」


パスファインダーの腕に手を絡めて見上げると、レンズが面白いくらい泳いでいる。パスファインダーってロボットだよね。なんかすごく人間味溢れた反応というか、ロボットらしくないような。でも少し面白いかも。


「よかったなパスファインダー。名前とキスができるぞ」

「キスってあのキスでいいんだよね」

「あのキスかもしれないし、別のキスかもしれないぞ」

「ミラージュ!僕は真剣に」

「真剣に私とのキス考えてくれてるの?パスファインダー可愛い」

「名前…ちょっと待っ」


パスファインダーの硬い体に乗り上げキスをしようと距離を詰めようとして、止まる。


「…パスファインダー、唇どこ?」

「………」


ミラージュが笑い、パスファインダーが黙る。とりあえず大きなレンズの中心に触れるだけのキスをして、パスファインダーの体から自分が座っていた椅子へと戻る。それにしてもミラージュはいつまで笑っているつもりだ。


「ミラージュその口を私のキスで塞がれたくなかったら今すぐ笑うのやめて」


ツボに入っているらしくなかなか笑うのをやめないミラージュに、キスをしてやろうと身を乗り出すとパスファインダーに体を抱き上げられ無理矢理 足の間に座らされる。硬いな。「ちょっとトイレ」と言って席を外したミラージュを見送り、パスファインダーを見上げるとどこか不機嫌そうだ。


「パ、パスファインダー?怒ってる?」

「名前」

「はい」

「キスは恋人同士がするものだよね」

「え?まあ、唇同士なら…恋人同士なんじゃないかな?」

「さっき名前は僕にキスをしたから、僕達は恋人同士だ」

「ええ…?」

「なのにミラージュにキスをしようとするなんてそれって浮気だよ。わかる?」

「わ、わからないよ…だってパスファインダーはロボットで…」

「うん。僕だってわからないけど名前にキスされた時すごく嬉しいと思ったし、ミラージュにキスしようとした名前を見たら腹が立った」

「やばいね…もしかして私のキスには何か不思議な力があるのかも」

「名前のそのポエマーなところも好きだな」


そう言いながらパスファインダーは硬い頭を私の頬にすり寄せた。硬い!硬いよパスファインダー!


「名前、僕の事はMRVNって呼んで欲しい」

「わ、わかった」

「これからは僕が恋人として名前を守るからね!本当は前から名前に特別ななにかを感じてはいたけど、やっとはっきりしたよ。奇跡だ。これが人間にしかない感情なんだね」

「…ねえ、ちょっと待って。私まだ混乱してるし、恋人の件は一旦保留って事にしない?」


私を抱き締めるパスファインダーの力が強くなり、骨が悲鳴をあげる。痛い!硬い!痛いし硬いよパスファインダー!


「へえ、名前は僕の唇を奪った癖にそういう事言うんだ。そんなに尻軽だったんだね」

「唇?!あそこ唇だったの?!」

「わからないけど僕が唇と言えば唇になるよ」

「詐欺だよ詐欺!」

「これからよろしくね、名前!」

「流れが強引すぎて酔いが覚めた」



パスファインダーとのやり取りに疲れてきた頃、ようやくミラージュがトイレから戻ってきたがまだパスファインダーに抱きかかえられている私を見てまた笑い出した。おい、もうキスで黙らせなくなったんだから笑うなよ。骨を折られそうになるんだぞ。


20190330


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