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「おい、アジェイ!あれ出してくれよ!あのルンバみたいなやつ!撃たれたところが痛くておかしくなりそうだ!」

「その名前で呼ぶなって言ったでしょ!ていうかルンバじゃなくてドローンだから。それにあんたの頭はもうおかしいから問題ないわ」


ライフラインが心底羨ましい。スコープを覗きながら2人の会話を聞く。密かに抱いている私の可愛い恋心ちゃんがしくしく泣いている。いや、ギシギシと歯を立てて嫉妬しているのがわかる。

チャンピオンになって富と名声を手に入れるためだけに私は戦ってきたはずなのに、いつのまにかオクタンに恋愛感情を抱くようになっていた。彼のどこに惹かれたのかって問われたら困るし、オクタンはアドレナリン中毒でぶっ飛んでいる。惚れたら負けという言葉があるように私は負けたのだ。このゲームにではなく、オクタンに。私の心の中では彼が常にチャンピオンなのだ。

溜め息をつきスコープから目を離す。ある程度索敵をしたがどうやら敵はいないみたいだ。いつまでもここで芋ってるわけにはいかない。まだ仲良くコントを繰り広げている2人に話しかける。


「2人とも、敵はいないみたいだけどそろそろ行けそう?」

「ありがとう名前。そろそろ行こうか」


ライフラインが役目を果たしたドローンを仕舞い、私の肩を軽く叩いた。良い子なんだよライフライン。だからお似合いなんだよオクタンと。それに比べて私は嫉妬の黒い炎で焼かれているただの汚れた黒い炭。なんだこの例えは。


「名前。なんか弾余ってないか?」


いきなりオクタンに話しかけられ肩が少し揺れる。


「え?あー、エネルギーアモなら使わないし余ってるよ」

「ラッキー。全弾くれ」

「うん、いいよ。はい」

「サンキュー!名前!」


奇声を発しそうになったけどなんとか飲み込む。お礼を言われるのは想像できたが、肩を抱かれて頭を撫でられるなんて…そんなの予想できるわけないじゃないか。オクタンは私を殺す気か?さすが私の中で永遠のチャンピオンなだけある。


「オクタンの銃ってWMとEVA-8じゃなかった?」


ライフラインがボソリと何かを呟いていたが、近くで銃声が鳴り響いたためよく聞こえなかった。



私達の部隊を除き残り1部隊。2人はすでに倒し最後の1人は潜伏している。高台に登りスコープを覗く。まだ近くにいるはずだ。建物の中だろうか。それとも死角になっている塀の向こうだろうか。

私の後ろでは腕を負傷したライフラインが治療しており、オクタンは付近を走り回り索敵しているがなかなか敵は見つからない。集中しろ、名前。スコープから目を離し頬を抓る。「よし」と小さく気合の声を出してスコープを覗いた時だ。チカリ、と何かが光り銃声が轟く。ハッと体を動かした時にはもう遅くドロリと熱い液体が頬を伝った。「名前!!」後ろからライフラインの声が聞こえて霧ががかかっていく視界の端にライフラインのドローンが見えた。

大丈夫だ。こんな展開 何度だってあった。私はなるべく詳しく敵の居場所をライフラインに伝えた。ライフラインは私の治療をしながら、私が伝えた情報を無線でオクタンに知らせる。

無線機から聞こえたオクタンの声がいつもより低かったな、とどうでもいい事を思いながら目を閉じた。






重い瞼を上げるとオクタンが視界を埋め尽くしていた。ここは恐らく医務室だろう。ドアップのオクタンは心臓に悪いなあとぼんやり考えていたが、脳が覚醒して飛び起きる。オクタンの頭とぶつかりすごい音がしたが、今はそれよりも気になる事がある。


「チャンピオン!取れたの?!」


私の問いに、隣で椅子に座っていたライフラインが笑顔で「もちろん」と言った。


「名前のおかげよ。あの時、冷静に敵の場所を教えてくれたから勝てた。最後はオクタンが仕留めてくれたのよ」


ライフラインの言葉を聞いてオクタンを見るが、何故か不機嫌そうだ。「じゃあ募る話もあるだろうし私は外に出てるね」とライフラインが席を外した。オクタンと2人きりになり、先ほどオクタンに頭突きしてしまった事を思い出す。


「さっきは頭突きしてごめん…痛かった?」


多分、オクタンのゴーグルに当たった私の方が痛かったと思うけど。というのは言わない方がいいな。


「クソむかつく!」


ずい、とオクタンが近付き両手で私の頬を挟んだ。恥ずかしいからやめて欲しいとも言えずにされるがままになる。


「あの野郎!名前にヘッドショットかましやがって。一生傷が消えなかったらどうしてくれんだ」

「…うう。紫鎧だったし、まあ多少はね」

「そういう事じゃねえよバカ。すげえ焦ったんだぞ。なのにお前ときたら冷静すぎるし、まあおかげでチャンピオン取れたけどよ。まじで心臓にわりい」

「うふ、ごめんね…」

「………なんで笑った?」


好きな人に心配されるのってこんなに嬉しいんだ。「ありがとう、オクタン」と緩んだ顔で言うと、私の頬から手を離したオクタンが溜め息をつく。


「…オクタビオって呼べよ」

「え、なんで」

「オクタンでもいいけどよ、名前が好きだから本名で呼ばれたいだろ」

「ちょっと待って。さらっと言わないで」

「つうか俺わかりやすくしてたつもりだけど」

「オクタンってライフラインといい感じなのかと思ってた…」


珍しくオクタンが黙り、そしてようやく私が言った言葉の意味を理解したらしく頭を抱え始めてしまった。


「あー…なるほど。それでいつも不機嫌そうにしてたのか」

「し、してないよ!」

「アジェイに嫉妬してただろ」

「それは…だって、オクタンとライフラインが仲が良いから」

「言っておくけどアジェイとは何もねえからな!俺が好きなのは名前、お前だよ」

「や、やだ〜!」

「は?!なんでだよ!」


ベッドから抜け出そうとする私をオクタンは抱き締める。いきなり両思いでした、なんて驚きすぎて頭の中がぐちゃぐちゃだ。しかもオクタンがどこか手慣れてて少しショックだけど、いつもとギャップがありすぎて心臓がぎゅっとなった。


「オクタビオ…」


小さい声で呟くと私を抱き締めるオクタンの力が少し強くなり、私の首元に顔を埋める。私もおずおずとオクタンの背中に手を回しぎゅっと力を入れた。やっぱり男だ。細いけどがっしりしてて硬い。


「オクタビオ、大好き」


両肩を掴まれ勢いよく体が離される。目の前には息を荒くしたオクタン。


「名前」


近付いてくるオクタンに、心臓がうるさく鳴り響く。あ、キスされるんだとわかってしまった。視界の隅にオクタンの義足が映り、また心臓がぎゅっと締め付けられる。私ってばオクタンの全部が好きなんだ。

好きなんだけど、


「マスクしたままキスするの?」

「…………」


オクタンが今気づいたかのように乱暴にマスクをずらし口元が露わになる。その後のキスは実に彼らしいキスだった。ストップという私の制止の声も聞かずに止まらなくなったオクタンは私の服を脱がそうと手を掛けたが、タイミング良く戻ってきたライフラインに頭を叩かれていた。


20190328


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