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「デイビッドなんか大嫌い!」


霧の森に響いたその声は明らかに怒気を含んでいた。丸太に座り黙って名前を見上げるデイビッドに、仁王立ちしてデイビッドを見下ろす名前。その様子を見ていたメグとドワイトはため息を吐いた。

デイビッドと名前は所詮両片想いというやつでお互いをすごく大事にしている。ネアが「早くくっつけばいいのよ。じれったくてイライラしてくる」と言っていたが同感だ。ドワイトはキャンキャン吠える名前を横目に二度目のため息を吐いた。

名前が怒るのは仕方のないことだ。デイビッド、彼をよく知らないやつなら「あいつは悪いやつだ」だと決め付ける事も少なくないだろう。人を見た目で判断するのはいけないことだとわかっていてはいるが、デイビッドと初めて対面した時 僕は「いじめられたらどうしよう」と無意識に思ってしまった。だけどデイビッドは情に厚く、何より仲間思いだった。そんな彼だから名前も懐いたんだろう。

そして名前も良い子だ。いつも相手の気持ちを優先的に考え、気遣いもできる。名前には怒りという感情はあるのかと疑問に思っていた時期もあったが、ここ最近 彼女はデイビッドに対してすごく素直で正直になったと僕は思う。それほどデイビッドと名前の絆が深くなったという事だろう。


今回、名前が怒っている原因はデイビッドの自己犠牲に対してだ。先ほどの儀式ではデイビッドだけが逃げられなかった。負傷した名前の肉壁になりキラーに捕まってしまったからだ。こういう事は何度もあり、その度に名前はデイビッドに「ごめんね」と「ありがとう」を涙ぐみながら伝えていた。「気にすんなよ」とデイビッドは名前の頭を優しく撫で応えていたが、きっと名前の中で、それは、どんどん溜まっていたのだろう。

自分のせいで、自分がもっと上手くできていたら、そういう気持ちはとてもよく分かる。気にすんな、と言われても気にしてしまい夜も寝付けない。僕も何度もそういう気持ちを味わった事がある。

僕は誰にも気付かれないように笑い、喧騒から逃れるように焚き火の側を離れた。背後から「おい、なに浸ってんだ」とメグの声が聞こえたが気付かない振りをした。



「私だってチェイスできるしデイビッドに守ってなんて頼んでない。自分の事は自分でできる」

「できてねえよ。チェイス中はちゃんとキラーを視認しながら逃げろって言ってんのにできてねえから先回りされてただろ」

「うっ」

「板を挟んでの読み合いになった時も馬鹿正直にやりすぎなんだよ。フェイクかけたりするとかしろ。弱い板ポジでぐるぐるしててもしょうがねえだろ」

「ううっ」

「下手な旋回に頼ろうとするな。一丁前に板を温存するな。板から板に、窓枠から窓枠に、もっと視野を広くしろ」

「デーイブ!」

「なんだよ」

「私のために黙って」


チラリとメグにヘルプサインを送るが、メグは夜空を見上げ呆けている。あれは駄目だ。呆けタイムといって1日の中で一番 頭がアホになっている時間だ。私はメグに助けを求めることを諦めて、一度冷静になる。

そもそも私は自己主張するのが苦手なタイプだ。人に嫌われるのが怖く、いつも周囲の顔色を伺っていた。ただの八方美人だ。 だけどここで出会った皆はいつも本音でぶつかってきた。「言いたい事あんならはっきり言えよ。その笑い方うぜえぞ」と初対面でデイビッドに言われた時はみんなの前で大泣きしたのを今でも覚えている。そんなデイビッドだからこそ、私も彼に本音でぶつかっているのだろう。

私はゆっくりとデイビッドの隣に座り、そっと寄り添う。私が大嫌いなんてひどい事を言ってもデイビッドは私を拒絶したりしない。


「デイビッド、大嫌いなんて言ってごめんなさい。大嫌いなんて嘘だからね。私はただ、デイビッドが私を守って死んでいくのが見たくないだけなの。いつも助けてくれてありがとう。大好きよ、デイビッド」


そう言うと、デイビッドは私の肩に手を回し額に触れるだけのキスをした。体は大きいのに可愛らしいキスするんだねと言いそうになったが我慢した。


「俺も名前が好きだから守りたいと思う。お前を守れずに逃げれたってなんも嬉しくねえんだよ」

「…うん」

「俺無しじゃ生きれねえようになってくれたら嬉しいけどな」

「…」

「まあ、つまり…お前を守ってやられんならそれは本望ってこった」

「…ありがとう、デイビッド。でも忘れないでね。私もデイビッドと同じ気持ちだから」

「おう。


つうか、死んでもまたここにリスポーンするだろ」

「デイビッド黙って」


20190323


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