彼はあの時、わたしに生きていてくれれば自分はどうなってもいいと言った。
その言葉がこんなに重いものだと気づかなかった。
どうして気づかなかったのか。
気付いてあげられなかったのか。
どうして彼を一人にしてしまったのか。
今更。
この考えは今更なんだと思い知らされる。
「どうしたの?」
「えっ?」
屈んで此方を伺う彼の表情は少し不安そうでとっさに出た驚きの声を出したあとに必死に誤魔化す内容を考える。
「なっ、なんでもないの!少し疲れただけ」
「そっか、ごめんね!俺が連れまわしたせいだね」
気をつかったつもりだったのに逆に気遣われてしまい、返答の仕方が悪かったと反省していると彼は私の手をとり、近くの公園へと足を踏み入れていく。
「さっ!座って!いま飲み物買ってくるから!!」
私を公園のベンチへと座らせると彼はそのまま公園の外へ走っていってしまった。
しばらくして現れた彼の手には缶ジュース。
公園の外にある自動販売機でわざわざ買ってきてくれたのだと思うと心が少し温かくなった。
「さっ!これを飲んで!!」
「ありがとう」
私のための行動に嬉しくなり、微笑むと彼も優しく微笑んでくれる。
こんな小さなことでさえも一つ一つが愛しくなる。
「どうしたの…?」
私を見つめてくる彼の瞳は真っすぐで泣きたくなる。
そんな感情を押し殺して首を左右にふる。
そしてこの次は笑顔、そう決めて表情を作ろうとするが上手くいかない。
「ごめっなさっ……」
押し殺した感情は一気に溢れてきて思わず両手で顔を隠す。
こんな表情を見せてはいけないんだとわかっているのに溢れ出た涙は一向に止まってくれない。
一番‘辛かったのは’彼なのに。
「えっ?!ちょっ!どうしたの?!」
急に泣き出した私に慌てる彼に安心させようと涙を拭うが一向に止まってはくれない。
今更なのに。今更思い返してもいままでのことを消すことはできないのに昨夜にみた夢のせいで過去がフラッシュバックする。
しばらくしても泣き止まない私に、慌てていた彼はしばらくすると黙ってこちらを見つめていた。
視線を感じて彼を見ると目線が絡み合う。
そんな彼はふっと笑って、
「なにか悲しいことがあったんだね」
そう言って抱き締めてくれる彼の温もりに触れて私の心は痛んだ。
優しい優しい彼。
「きみがなにを考えているかわからないけど俺はいまここに君と一緒にいられて幸せだよ。」
抱き締められながら告げられた言葉は何よりも自分自身が求めていたことだった。
こんな当たり前のことをできるようになるまで色んなことがあった。
けれど、
それでも私は
また彼を好きになった。