ドサっと思い音がした。
右手が震えている。視界はゆらゆら揺れて掠れてまるで海の中のようにぼやけた。
俺にふらり、倒れかかってきた体は濡れていて染まる赤が見たことないほど綺麗。
取り残された空間に漂う血の匂いに咳き込みそうになった。
飛び込んできた彼女は俺の手を掴んで俺の代わりに全てを受け止めた。
はあ、と荒い息を繰り返しつらそうに眉毛を歪ませた表情は
口と目だけは優しく笑っていて違和感。
だ、い、じ、ょ、う、ぶ、?きっとこう言ったのだろうけど、息と混ざって音になっていない。
「なんで…っ」
受け止めた体はだんだん冷たくなってゆくのに流れ出る血は温かくて。
きっとこの血が彼女から体温を、命を奪っているのだと思って必死にふさごうとしたけど、指の間から伝ってこぼれ落ちた。
広がった赤い赤い絨毯みたいなそれもコンクリートに熱を奪われて(やめろ、やめろ)
「何してるんだ!!」
「はは、」
「どうして、こんな」
彼女が着ているジャケットからのぞくスカートは夕焼けより赤い。
正反対に顔は青白くなったゆくから、壊れないように優しく優しく抱きしめた。
「私は、あなたに、しんでほしくなかった。そして、くるしんでほしく、なかったの」
力なく笑う彼女は絶対、頭がおかしい。
なんで笑えるんだ、なんで良かったなんて言うんだよ(おれ、は)
「なかないで」
わらってと呟いて二度と開くことのない瞼を閉じた。