彼を思い出してから一週間になる。
あのあとの彼の様子は今までと変わりなく、‘いままでのこと’が嘘のようだった。
「おい、」
振り返ろうとした瞬間、急に腕を掴まれるとそのまま引き寄せられる。
「…ぁ…」
「なにやってんの?」
自分の目の前には大きな宣伝用の看板がある。
あのまま進んでいたら今頃はぶつかっていただろう。
それに気が付いた彼はおそらく止めようと呼びかけてくれたのだろう。
それなのに私は歩き続けてしまっていたのかと反省していると目の前の彼は呆れたようにこちらを見ていた。
「ぼーっとしすぎ。記憶戻ったばかりで覚醒してないわけ?」
「ごめん」
心配してくれているのだと目をみるとわかるのは昔から一緒だから。
あの時の‘わたしたち’は毎日が輝いていて、なにが起こるかわからない未来を楽しみにしていた。
「考えすぎ」
「えっ…?」
唐突に彼はそれだけいうと、さっさと歩いていってしまった。
彼の言葉の意味を読み取ろうと少しだけ考えている間に彼はどんどん歩いていってしまう。
私は急いで、遠くなった彼の背中を追いかけた。
「はぁ…」
ようやく彼に追いつき、横に並びながら乱れた息を整えていると急に彼が手を差し伸べてきた。
わけがわからず、その手を見つめていると急にため息をついて私の手を少し強引に掴んだ。
「えっ…」
「………………」
わたしの手を引き、再び歩きだす彼に驚きを隠せない。
いまだに手を繋ぐことを許してくれない彼がいま、自らの手で繋いでくれたことにジワジワと嬉しさが胸に溢れる。
「シン………、大好き」
「……………知ってる」
相変わらず、こちらを見てくれる気配はないが
それでもそれだけで今のわたしには充分だった。
わたしたちは変わらずここにいるよ、
だから必ずまた会いにきて、
必ず帰ってきて
¨もう一人¨の幼なじみにわたしは心の中でそっと囁いた。
end