(、ずきずき)
痛む心臓のずっとずっと奥は日に日にその強さを増してゆく。特に、こんな日はそうだった。
「雨‥止まないかなあ」
窓のそとを眺めているだけなので濡れることのない体は、もう随分とそとの世界に触れていない。じぶんを囲む壁が狭くて嫌いだった、あの頃がとても昔のように感じられた。
家に帰らなくなって、どのくらい経っただろう。指折り数えてみたけど、曖昧な記憶じゃあそれは叶わなかった。
ザーザーと降る雨がつらくて近くにあった毛布を被る。すこしだけ弱まった雨の音に安心した。毛布の柔らかい温度に安心した。(懐かしい‥)
そう、だ。私はこの温度を知っている。だけど感じた違和感の理由を思い出せなかった(出さな、かった)
がたん、。ドアが開く音がして、無意識のうちに震えた体。だけど、毛布が守ってくれるから、(何故、そう思ったのだろう)
「起きたのか?」
「‥トーマ?」
「ただいま」
「おかえりなさい」
(、ずきずきずきずき)
痛む胸の意味を、真実を私は知らない。知らない。知らない。
(なんで、私は此処にいるんだっけ?)
あのひからずっと窓のそとを眺めているこいつに腹が立って、苦しくて、悲しくなった。
(わかってる、じぶんにその資格はないってこと。)
手に入るならどんなことでもすると決めたのはじぶんでしょう?なのに、なのに手に入ったお前はまだあいつを探して探して、おれを見てはくれない。
あの雨の、ひ。泣きじゃくるお前を見つけなければ――こんな気持ち、知らずにすんだ。(なんて、それこそ馬鹿げてる)
捨てられた子猫のようなこいつを見捨てられるほど、簡単じゃなかった、ということ。(だって、本当に、すきなんだ)
「トーマ、」
にっこり、とすごく楽しそうな笑顔がすきだった。
生意気で、強がりのくせに寂しがり屋なおまえを守ると決めたのになあ、。
おまえは、そんな弱々しく笑うやつじゃなかったでしょう(それとも、おれが知らなかっただけなの?)
あのひ何があったのか、おれは知らない。こいつがぜんぶぜんぶ忘れてしまったからだ。でも、確かなこと
誰かがこいつをふったということと、まだその誰かをすきだということ。だけ、
苦しいのは同じ筈なのに
愛したいのも、愛されたいのも同じ筈なのに、
(なぜ、すれ違ってしまうのですか)
「ありがとう、トーマ。ありがとう、嬉しかった。ここはあったかくて、優しかったよ。だけど…ごめんなさい、‥さよなら」
呼吸のおとが近くで聞こえた。
抱きしめられている、と理解したときにはもう、もうお前は何処にもいなかった。
(、ただすきなだけだった)(しあわせにしてあげたかった)(それだけ、なのに)
Act(気づかないフリをしていただけの)