緋色小説 | ナノ
強がるわたしは弱い証拠。
けれど強がることを止めた時に気づくことはたくさんある。



「先輩?」


「えっ…?」


ハッと我に返ったわたしの目の前には不思議そうにこちらを見ている彼。


「どうかしましたか…?」


心配そうに眉を下げた彼の表情をみる限り、私はしばらくの間彼の言葉が耳に入っていなかったようだ。

そんな彼に私は精一杯の笑顔を向けた。
そうすることが自然となっていることに気が付くとこの行動は癖になっているのかも知れない。



「大丈夫だよ!ごめんね、少しボーっとしてたっ!!」


そんな私の行動に彼はぎこちなく笑った。
そんな彼の表情に私は何か‘間違った行動’をしただろうか。そんなことを考えていると彼は私との距離をつめてくる。


「慎司くん…?」


その表情は少し辛そうでそんな彼を見て私の心はぎゅっと痛くなった。

痛くなった心とともに彼に何があったのかと心配になってくる。


「いま…」


「えっ…?」


突然口を開いた彼は真剣な表情で真っすぐに私を見つめてくる。
その瞳は少しばかり揺らめいていて弱さと一緒に強さが存在している。



「先輩はいま僕に対してどう思いましたか」


そんな言葉に何も言えなかった。
図星をさされたように心が動揺している。
何に対してと問われれば答えを言葉にすることは出来ないが、これだけはわかる。





わたしは彼を
傷つけた。









「慎司くん…」


ぎゅっと慎司くんの手を握る。そんな私の手を慎司くんは優しく握りかえしてくれる。



「いま、僕は先輩の力になりたくて必死でどうすれば頼ってくれるか考えています。」


「うん…」



慎司くんが言いたいことがようやく伝わってきて私の心が痛みを増す。









「強がるあなたより僕は弱いあなたを支えたい」



その言葉が何よりも心に響いて、涙があふれる。
いつもの彼であれば慌てるはずなのに今日の彼は優しく微笑んで私を見つめている。



「ごめんなさい…」



涙を流し続ける私に彼は笑顔のまま左右に首をふる。

いつの間にかこんなにも
強がり続けることが当たり前になっていた。


けれどそれは大切な人にとっては時に傷付ける行為なんだと彼は教えてくれた。










色んな感情が溢れて涙が止まらない私を慎司くんは優しく抱き締めてくれた。


彼が教えてくれた一つ一つが
わたしにとっては宝物。







end
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