「なにしてるんですか」
「円…」
振り向くと予想していた通りに不機嫌そうな顔をした彼。
私の隣にいる央は笑顔でおかえりと彼に話しかけている。
「僕の質問に答えてください。なにしてるんですか」
「ただお話してただけだけど?」
目の前の彼の表情が益々険しくなる。
彼は私に対して問いかけているのだと思うが全て隣にいる彼の兄が先に答えてしまうのだ。
「央には聞いていません」
ついにはそんな言葉を投げかける彼に央は肩をすくめると椅子から立ち上がり、扉の方へ歩みを進める。
「全く昔の円はかわいかったのに」
そんなことを呟きながら扉を開いた彼に私は制止をかけた。
「ちょっと…!なかっ…」
「あとは二人でゆっくり話し合うといいよー」
あぁ、本当に無責任だ。
これであれば¨以前¨の央の方がまだ可愛げがあった気がする。
そう思ったのはこれで‘二度目’だ。
「………」
央がいなくなったこの部屋は妙な静けさが広がっていた。
無言で見つめてくる彼にため息を押し殺す。
そうでなければ確実に面倒な展開へ向かうであろう。
「それで?」
なにが、
と尋ねようにしても彼の声があまりにも冷たすぎた。
ここで普段のように返してはいつものようにケンカになってしまう。
今は避けたい。
「ただ央と話していただけよ」
「へぇ」
さすがにその反応にはカチンときた。
だがここまで我慢して台無しにする訳にはいかない。
せっかく央も協力してくれたのだ。
「嘘はついてないわよ」
「じゃあなんで最近央と一緒にいることが多いんですか」
「たまたまよ。円がどう思ってるのか知らないけど別に何にもないわ」
円はしばらく此方を見ていたが、突然背中を向けると扉に歩みを進めた。
「円?」
私の言葉に反応をしめし、一度歩みを止めたがすぐに歩みを再開する。
このままではいけない。
ここでケンカしてしまっては¨今までのこと¨が台無しだ。
「待って!!」
気が付いたら円に抱きついていた。
自分でもそんな行動してしまったのが恥ずかしいがそのおかげで円の足は止まっている。
「………」
だが言葉が続かない。
話しかけても反応してくれないのではないかと不安になっているせいか、全く口が動かない。
「なんですか」
先ほどよりも少し落ち着いた声がかかる。
私は円を強く抱き締めて覚悟をきめると彼に隠していた真実を言葉にする
「円にケーキを作ったの…」
「はっ…?」
やっと口を開いた私が発した言葉が予想外だったようで彼は固まっていた。
けれどこちらは大真面目なのだ。
「ブレスレットをくれたお礼よ。央の作ったものに比べたらかなり劣ってしまうけれど…」
ゆっくりと彼が振り返る。
その表情は少し驚いていた。
「央と一緒にいたのは彼に作り方を教えてもらっていたからよ」
やっと伝えられた事実に彼の表情は驚きから笑顔に変わる。
いや、笑顔というよりはニヤケるといった言葉が正しい表情だけれど。
「案外可愛いところあるじゃないですか」
彼は大きな手が私の頬にそえると顔を上にあげられた。
「ですがあんまり余計なことはしないでください」
彼に言葉を告げようとしたがすぐに彼に口を塞がれた。
こんな我が儘でヤキモチやきな彼でも大好きなのです。
end