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目を開けて、最初にした行動は自らの手を確認すること。
自分の目に写るのは指にはまった小さなリング。

太陽の光に輝くリングはそれが現実のものだと証明していた。


「夢じゃない…」



そう言葉にしても未だに夢のような気分だ。
フワフワした思考の中、いつもの聞き慣れた機械音が部屋中に響きわたる。

鳴り響く目覚まし時計を止めるとゆっくり、上半身を起こす。


そして指に存在する小さなリングを何度も確認する。












「おい、なにボーっとしてんだ」


突然手を掴まれ、歩みを止められる。
意識がはっきりして最初に目に入ったのは大きな電信柱。


彼が止めてくれなければ確実に目の前の電信柱にぶつかっていただろう。




「お前…」


一言、お礼を伝えようと口を開く前に理一郎が言葉を続ける。



「なにか変な物でも食べただろ」


「……………………」




あぁ、
謝ろうとした自分がバカだったのだと考えていると理一郎は無言で歩き出した。


普通は心配するものではないのかと不満を抱きながらも理一郎の背中を追う。


周りは桜の花びらが絨毯のように色づいていた。
その花びらを見つめながら歩いていると理一郎が急に振り返る。





「……………」





こちらを見つめたまま無言の彼に訳がわからず私自身も自然と黙りこむ。




「それ」



「えっ……?」




理一郎が見つめているのは私の指。
否、
指というよりは、はめている指輪に目線を向けている。






「どうしたの?」




それ、
と言ったあとから再び無言になる彼を見て、不安になる。




もしかしたら
《返してほしい》
と言われるのではないかと…















「………てる…」






「えっ…?」




不安ばかりが募り、悪いことばかり考えていた私には彼が囁くように発した小さな声が耳に入らず、余計に不安が増してゆく。

もう一度話してほしいと目で訴えるが彼は私と目があった瞬間、背中を向けて歩みを進めはじめた。



「ちょっと…!理一郎!」


必死に追いかけ、呼び止めるが全く歩みを止めようとしない。
それどころか歩みがどんどん早くなっていってる様な気がする。




「いい加減にっ……!」



して、と言葉を続けようとした時だった。











「似合ってる」






突然耳元から聞こえた声。

唐突すぎて理解するには少し時間がかかったが彼の温もりを徐々に感じ始める。




「理一郎が選んでくれたものだから」









彼がそばにいてくれることが何よりも大切なこと。



この指輪に込められた想いは


きっと…、











end




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