坂城家で過ごすお家デートは大概自分の勉強の課題や予習復習をするか、借りてきたDVDをリビングで一緒に見るか、だ。

健全なお付き合いである。それに文句はない。

しかし、勉強をするならうちは早々に飽きる。

勉強に集中すると恋人の坂城さんは構ってくれないし、すねるように「ちょっと昼寝する」と勝手にベッドを借りて横になった。ようはふて寝だ。
最初は布団から坂城さんの匂いがする〜と嬉しくなってごろごろしながらブランケットにくるまっていたのだけど、いつの間にか眠ってしまった。

お布団があったかい。
ねむけがきもちいい。
布団から坂城さんのいい匂いがする……と綿あめが詰まった頭はそんなことしか考えられない。

現実と夢をさまようようなフワフワとした心地よい感覚にもぞもぞと体を動かす。
フィットする位置を見つけて、起きたくないな〜とまたうつらうつらしていたら、ふわふわする意識のなか坂城さんの声が聞こえた。


「ぐっすり眠ってるな……良い度胸だバカめ」


誰がバカですか〜? 構わないあなたが悪いんですよ〜? と無意識に言いそうになる。
眠気に支配された頭では気配やなんとなくここにいるな〜ということしか分からない。ベッドがきしんだことから坂城さんはベッドに座った。背中を向けた私の足側かな、背中のところかもしれない。

「キスしてもバレなさそうだな……。いやバレたら怒るな。怒っても、かわいいけどな」

ぱちり、と目が覚めた。え? かわいい?


「すねて寝るって……子どもか、秋穂」


声を潜めてくつくつ笑っている。かみ締めるように「かわいいなあ、バカで、かわいい」と言っている。
するり、と坂城さんはうちの髪を指に絡めてすきはじめた。どきり、とうちの心臓は跳ねる。優しく髪に触れゆっくりすかれる。その繰り返し。


「好きだなあ、お前のこと」


ふっと呟かれた言葉に全身が熱くなった。その言葉には、愛おしいという感情が込められていた。それが伝わってきて、かぁぁ、と全身が熱を帯びる。


そんな、そんな風にうちのことが好きだって思ってくれてるのですか、坂城さん。
恥ずかしくて、うれしくて、こそばゆい。


実はうちが起きてるのを分かっていて、からかっているんじゃないだろうか? 一瞬だけそんなことを思ったけど「……起きたか? ん、大丈夫か……。危ないな、本音がダダ漏れだ」というつぶやきが聞こえて、危ないって思ってるならお口チャック! と言いたかった。


これが坂城さんの本音。


疑いようもなく、坂城さんはうちのことが好きなんだと。
……好きじゃなきゃこの人はうちに触れたりしないんだろうけど、たまに邪険にされたり扱いがたまにひどかったりすると自信が無くなってしまうから、そう言われるとものすごくうれしい。


「少しだけ……お前あったかいな、秋穂。やっぱり子どもか」


ベッドが沈み、背中越しに熱を感じた。おなかに手を回され抱き枕状態になる。肩口に顔を埋められ、坂城さんの髪の毛がくすぐったい。寝た振りがバレそうだ。むしろバレてるんじゃないか、やっぱり。


「ん、ん……」
「起きるか? まだいいぞ、寝てて」


ぽんぽん、と頭を優しく叩かれ、変な声が出そうになる。なんでうちが寝てるときばっかり優しいの?


「お前を好きにできるのは楽しい……」


おなかに回された手の力が強くなる。色んな意味で熱い。



……しばらくして。



「坂城さん?」


抱きしめられた手の力が弱まりすーすー、と穏やかな寝息が聞こえてきてゆっくりと体を動かす。坂城さんに対して背を向けていた体を正面にして、彼と向かい合う。


坂城さんは眼鏡を外して寝ていた。眼鏡をしていても分かる端正な顔立ちが目の前にある。その顔がきれいで思わず手を伸ばして、輪郭を親指の腹でなぞっていた。


「うへえ、きれいな顔……。坂城さんは眼鏡を取ると幼いですよね」


指でなぞるすべすべの肌がきもちいい。顔にかかって、うざったそうにしていた伸びかけた横髪を耳にかけてやる。
眉間のシワが無くなって穏やかな顔をしていると、びっくりするほどに幼い。
……ああ、この人が好きだ。最初は笑った顔に一目惚れした。


付き合って分かったのは、自分にも他人にも厳しくて優しい人。努力家。人より出来るからこそ世話焼きで案外メンタルが弱かったり甘え方が下手だったりあと慰め方が下手で不器用。真面目で素直になれないしキツイ物言いから勘違いされやすい。だから苦労人……あと顔が整っててカッコイイ。それを言うときっと「性格よりも顔か……」と落ち込むところ、可愛い。


「せーきさんが好き……えへへ……うん、好き」


嬉しくてつい内緒話をするトーンでつぶやいた。自然とキスしたいな、と思わず考えてしまい感情のやり場がない。坂城さんの服を掴んで彼の胸に頭を押し付ける。
こんな気持ちが溢れて言葉じゃ足りないからハグやキスをするのかなぁ、と思った。それはすごくステキだなぁ、と笑みが漏れる。


恥ずかしいけどたまになら自分から、キス、してみても良いかなぁ、と思う。


「……起きたらまた好きって言ってくれないかなぁ? えへ、恥ずかしいからいっか….…」


微睡みに溶けていく。重くなるまぶたに抗えない眠気。それに少し抗って坂城さんの手を探して緩く握った。普段は冷たい手だけど、今は眠っているからか、体温が高い。あったかい体温に安心する。


あと、二度寝って最高だよね……。


おやすみなさい、と誰に言うまでもなく眠りに落ちた。


その後すっかり夜になって、坂城さんのお母さんに起こされて、赤面して慌てて起きるのはまた別の話。



起きてるときに言ってよ


面と向かって「好き」を素直に言えない二人の話。

2017.09.09 燈下燈
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