その日千百合と小虎は土曜日にも関わらず、模試を受けるために学校に登校していた。
その帰りに、小虎は「あのさ、昼飯、食べに来ねえ? ……外で食べると金かかるし、俺作るからさ」と千百合をご飯に誘い、彼女は「もちろん」と二つ返事で了承した。

「わたしも手伝うわ」
「カレーだから、まあ、うん、手伝ってもらうかな……」

小虎は少し尻すぼみなな返事をしながら、「家に子ども用の包丁あったかな」と考えていた。
そして二人で山月家に帰宅すると、玄関口には見覚えのあるスニーカーが二足。

「……あいつら勝手にあがりこんで!」

すぐに察した小虎は、リビングのソファにいたショウを見つける。

「よう! 邪魔してるー!」
「邪魔してるじゃねえよ!」
「こんにちは、ショウくん」
「よう、こーさか! なあなあ、ゲームしようぜ!」

自分の家のように振舞うショウに、小虎は呆れ果てる。だが、ショウは山月家の合鍵の在り処を知っているし勝手にお邪魔しているのは、いつものことだ。

「……ん?スズは?」
「さあ? 寝てるんじゃねーの? 突撃!小虎んちー! ってなって今日模試じゃん!って気づいてつまらなそうにしてからさー」
「確かアイツも模試受ける対象なんだけど……通りでいないと思った」
「スズちゃん起こしてくる?」
「いい。勝手に寝かせておけよ……寝起き不機嫌だしな」
「そう? 今日、山月くんのお父さんは?」
「休みだから寝てるか……シャワーの音聞こえるからシャワー浴びてるかもな」
「おれゲームしてからしらねー!」
「お前、ここおれんちだからな?」

小虎の父は、スズとショウを我が子のように可愛がっているので二人が家に勝手に上がり込んでも一切怒らないどころか笑顔で「遊びに来てくれたのか〜」と言うばかりだった。今日は寝てるだろうな、と思ったらシャワーの音が聞こえるのでどこかにでかけるのかな、と彼は思った。

「そういえば、昼から雨降るってよー」
「それなら洗濯物くらい取り込んでおけよ!」
「ことらやるじゃん」

おれなにもしたくねー、と笑って言うショウに小虎の怒りのボルテージは上がってくる。これ以上ショウの相手にしてると、千百合の前で怒鳴り散らしてしまう。そう思った彼は「……高坂、ちょっと洗濯物取り込んでくるな」と断りを入れた。

「ええ、手伝う?」
「そこの馬鹿と喋ってて」
「あはは〜怒るなよ〜」

ぴき、と小虎の額に血管が浮き出る。あらあら、と千百合は無表情にも口元に手を持っていく。なぜか今日の小虎は機嫌が良くないことを察知し、ショウをなだめようと口を開く。

「ショウくん、山月くんがおこよ。しぃー」
「あはは、おこだな! しぃーだなー!」

口元に人差し指を立てて、幼い子に言い聞かせるように言う。ショウは朗らかに笑って千百合の真似をして「ことら悪かった悪かったー!」と悪気0で謝る。

「はあ……怒る気も失せた……すぐ戻ってくるから二人で喋っててくれ」

ショウのペースに毒気を抜かれた小虎は、肩を落として縁側から小さな庭に出て洗濯物を取り込みに行った。

「あはは、あれはこーさかとふたりっきりになれたところ邪魔したのを怒ってるなー」
「あら……あらあら」

ショウの言葉に千百合は表情は相変わらずの無表情だが、うっすら頬を染める。

「いっつもおれたちひっついてるからなーまあ、おれとスズはことら大好きだからしょうがねーよなー?」
「山月くんを好きな気持ちなら負けないわよ?」
「あはは、そうだなー! こーさかかわいいからしょーがねーやー」
「山月くんも人たらしだと思うけど、ショウくんも相当よね」
「女子には可愛いって言うのがマナーだってトーチャンが言ってたからなー」
「ショウくんのお父さんは、イタリア人なの……?」

ショウの父親にイタリア人疑惑が浮上したところで、千百合はここにいないスズのことを思い出す。

「ねえ、ショウくん」
「うんー? なんだよこーさかー?」
「スズちゃんは可愛い女の子……じゃなかったわ。男の子だけど」

千百合の中で可愛いといえば、スズである。天真爛漫に笑う彼には、一種の憧れを抱いていた。……性別が男でなかったら、今でも小虎と一緒に居ることに対して嫉妬していただろう。

「そうだなースズはかわいいなーはは……」
「……ショウくん、どうしたの?」

急に乾いた笑い声を立てるショウに千百合は首をかしげる。ショウは「いや、まだこーさかはさー、スズの見た目にだまされてんだなーって!」と視線を逸らしながら言う。

「ショウ、まだ引きずってんのかよ? お前の初恋がスズだったってこと」

ちょうどそこに洗濯物を取り込んできた小虎が、話に入ってくる。少しニヤニヤしながら「転校してきたスズに一目惚れしたんだよ。なー?」とショウを追い詰める。

「ちょ! ことら、それは言わない約束だろ! こんにゃろ!! あとあれはカウントしないことになってる!!!」
「まあ……そうだったの。でもしょうがないと思うわ」

千百合の一言がトドメとなったのかショウは「うぐぐぐ……どう見ても美少女としか思えなかったんだよおおおお!!!」とキレる。

「そうよね。今でも美少女よね」

うんうん、と頷く千百合に対してふたりは「いや……あれはなー……」「な……」と微妙な顔をする。
千百合はふたりの反応に「どうして二人はスズちゃんが可愛いって素直に思えないの? 本当はとっても強いから?」と疑問を口にする。
彼女もスズの見た目や小悪魔的な性格やそれに反して男らしい部分があるのを知っているが、それでも可愛いく素敵だと思っている。
ふたりは言葉を濁しながら「まあ、あとは性格もあるんだけど……スズはな、」と口を開いたとき――。



「はー、さっぱりしたよぉ」



ガラッと奥の方の扉が開き、腰にタオルだけを巻いたスズが現れた。



「!!?」

千百合は急に現れたスズに表情は変わらず驚いたが、彼とその身体つきを見て衝撃を受けた。
その身体はおよそ「可愛い」と評される彼に似つかわしくない、筋肉がついた身体だった。腹筋は綺麗に六つに割れているし、すらりとした手足は余分な脂肪はない。
スレンダーなのに、太もも、ふくらはぎ、二の腕……と綺麗な筋肉がついているのだ。千百合は思わず見惚れてしまい「なんかシャワーの音するって思ったらお前かよ、スズ!?」という小虎の声にハッとする。

「あ、小虎、勝手にシャワー借りたよぉ! 服貸してーってあれ、高坂ちゃん!?」

スズはシャワーを浴びた直後で水に濡れた髪が邪魔なのか、かきあげる。それが「男」の色気を醸し出し、千百合は思わず自分の顔を両手で覆う。

「え、と、ご、ごめんなさい……っ」
「いつものことだから別にいいけど! 高坂の前でタオル一枚で居るな! 服着ろっ!」
「ごめんっ! 居ると思わなかった!! ぎゃー! すぐ着替えてくる! 」

カァっと顔を赤くさせたスズはいつもの彼で、逆に千百合はホッとする。そして、恐る恐る両手で覆った顔を指の隙間から覗かせる。

「……すごい、ものをみてしまいました……」

そう感想を述べる。ふたりが微妙な顔をしていた理由も分かった。

「アイツさあ……かなり身体鍛えてるんだよなあ……筋肉つきにくくて悩んでたんだけど」
「それこそ、おれと小虎は体格差あるのに一度も勝てねえっていうか……大人なら別だろうけどー」
「りんごつぶせたっけ」
「そういうのはやらねーじゃん。でも出来そうだよなー」
「すごい……」

千百合の家は極道だが、あそこまで綺麗な筋肉をつけた人は見たことがない。……万里がまずもって組の者には全裸や半裸を禁止しているが。

「しっくすぱっく……あと、髪下ろしてオールバックにすると、すごい色気……スズちゃんって本当に「男の人」だったのね」

「だから言っただろー? 見た目に騙されてるって。スズはさぁ……」







∴脱ぐとすごい。
(どうしたのぉ? 高坂ちゃんごめんね!男の裸なんてむさくるしいもの見せて!)
(ううん……とてもよいものを見せてもらったわ……?)
(へ!? なんでぇ!?)

 
 
 
 



スズは可愛い男の娘だけど筋肉はあるんだぜって話でした!
20160818 騎亜羅
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