※アテンション
!坂城正紀×澤北秋穂の大学生設定
!菘(すずな)より誕生日記念作品
!ぬるく甘い話(うとうとのサイト比)









「あははっ」

秋穂の笑い声は文字がみえる。楽しそうで嬉しそうで分かりやすくて、可愛い。なんて。

「髪、伸びたな」
「えーそうですね。伸びました」

声をかけるとケータイにあった視線が俺に変わる。

「ジャマなんですよね。坂城さん切ってくださいよー」
「なんで俺が」
「上手そう。坂城さん器用だから」
「他人の髪は切ったことは無い」

ましてや女性な髪など、想像しただけで怖い。

「そのままでも、いいんじゃないか」
「そうですか?」
「俺は、その方が」

好きだと言おうとしたら秋穂のケータイがピロリンと鳴った。

「あ、美緒からだ〜」

視線はまたケータイへ戻る。そして秋穂はまた笑う。その顔は好きだが、今はとても憎い。暑さなのか最近会えなかったフラストレーションなのか、そう思う。

「えっうわ」

後ろから無理矢理抱きしめた。秋穂の動かしていたケータイが床へ落ちる音が聞こえる。

「さか、じょーさん、ど、うしたんですか」
「別にどうもしないが」
「ど、どうもしない坂城さんはこんなことし、ない」

ジタバタと手足を動かし秋穂は抵抗していたが、無謀なことだと感じたのだろう30秒もしないうちに静かになった。

「髪、伸びたな」
「それさっき話しましたよ」
「話は終わってなかったんだが」

口を滑らせたと思ったときには既に後悔が生まれていた。いくら秋穂でもこの言葉の意味には気が付いてしまう。余計なことを考えさせてしまう。

「もしかして坂城さんうちが構われなくて寂しかった、とか?」

こんなときに限って正解を言ってしまう。いつものように的を外してくれればいいのに。

「そう、だ」

だけど、嬉しいとも思うからやっかいだな。本当、今日の俺にはまとまりがない。

「最近会えて無かったからな。この先もしばらくは会えない。だから、うん」
「嬉しいです」
「嬉しい?」
「うちだって寂しかったし、坂城さんカッコイイからモテモテで可愛い女の人にチヤホヤされてると思ってたし、でもそんなこと言ったら坂城さんに迷惑かなって、だって、こういう感情って自分でも分かるくらい面倒くさいじゃないですか。だから、坂城さんも同じように面倒くさいこと思ってくれたことが嬉しいです」

声だけで分かる。今、秋穂は上機嫌に歯を見せて笑っている。

「大人になったな。敬語も使えて、気持ちも考えれるようになって立派な成長だ」
「やっと、気が付きました?」
「あぁ。やっと」
「ちょっ馬鹿にしてませんっ?!」

馬鹿にしてるんじゃない。分かっている。もう子どもじゃないことも、2年という歳の差が関係なくなっていることも。随分前から分かっている。

「それなら、俺をたっぷり甘やかしてくれ」

だから、こんな風に誤魔化しておく。自然と笑みが零れ、それと同時に抱きしめる力も弛んだ。その隙をつくように秋穂は俺から抜け出した。
声をかけようとした瞬間、秋穂は正面から俺に抱き着いた。刹那とはこういうことかと突然のことに驚きもあったのに冷静に考えてしまった。


「正紀、さん」


不意打ち。


「だいすき」

俺の言葉を待つことなく俺の口は秋穂の柔らかなくちびるによって塞がれていた。状況を理解した時にはくちびるが離れ、目の前には恥ずかしさで顔が真っ赤な秋穂。可愛い。誤魔化しきれないじゃないか。
俺は秋穂を引き寄せて深く長くキスをした。わざとらしく音を出して。

「さ、さかっじょ……さん」

くちを離して見えた秋穂のとろんと甘い表情に、心拍数があがって高揚しているのが分かる。もっとほしい。するりとTシャツの中に手を入れると秋穂の身体が固まった。止めるか。わずかに残っていたらしい冷静さが、ゆっくりと俺を取り戻し秋穂を安心させるように抱きしめる。

「怖かったな。悪い」
「怖かった、けど」
「それ以上言うな。制御できなくなる」

力ない返事が聞こえた。きっと秋穂の中にはまた面倒くさい感情が生まれているんだろうな。いくらそうじゃないと言っても消せるものではないことは分かっている。

「秋穂」

それなら俺にできることは、ただひとつ忘れないでほしいことを伝えることぐらいだ。

「好き、だ」






∴とある夏の23:06
(たったひとことに未だ心臓は騒がしい)

あとがき
2016/07/28 うとうと*菘より
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