スズ×刹那で遊郭パロ


夜の帳が落ち、格子の外から甘やかに男を誘う声にあれよあれよと釣られていく男。――男の欲と女の駆け引きが色濃く匂う、くらみそうな光と闇が溢れる花街。
その街の仲見世にある「梨園屋」の奥の間では、不思議な光景を見られた。


「ぎゃはっ!ホントに叶うとは思わなかったなぁ……」


紺色の着物を着た華奢な男――スズは蕩けるような笑みを浮かべ、鈍色の髪を持つ青年に身を寄せる。この青年、よく見れば顔が整っているが残念なことに目から頬にかけて一線、深いキズがついていた。


「……オレなんかがお酌しても楽しくないだろ」
「ううん、せっちゃんに会ってからずーっと、こうされたいって思ってたよぉ?」


青年は素っ気なく、スズの空になったお猪口に酌をする。スズは嬉しそうに酒を飲み干し、ふふふ、となにがたのしいのか喉を鳴らして笑う。


――はて、ここは花街。男娼などいない、男が女を買う街である。
倒錯しそうな光景に、青年も思わず唸る。


青年――刹那は「梨園屋」の用心棒で、スズは店の常連客。
スズは気風の良い遊びをし、欲を伴わない遊女と遊び愛でる彼は、評判が良かった。
刹那も出会う前は、名だけ聞くスズに好感を持っていた。最近、遊女相手に礼儀も知らない無粋な輩が花街には増えてきたせいか、スズのような遊び方をするのは珍しかった。
だが、ある日を境にスズは刹那を口説きだした。


曰く、遊女に無礼を働いた輩をハッ倒した刹那が美しく惚れた、とのこと。


『刹那って言うの!? カッコイイ! せっちゃんって呼んでいい!? 君、女の子でしょ! どうして用心棒なんてしてるのぉ? その銀髪も顔も、そこらの遊女よりずっと!綺麗なのに勿体ない!』


 その時、刹那は大層驚いた。自分を一目見て女だと言い切ったのは、スズだけだった。どう見ても薄っぺらい身体に、切りそろえられた銀髪、中性的に見える顔は男にしか見えないというのに。


それからスズは美しい遊女たちに目もくれず、刹那を口説きだした。刹那の仕事や店には迷惑はかけない程度で、きちんと遊んでいく。
最初は何の冗談かと思えば、スズに点った熱っぽい目に刹那は本気を見た。


――それは、遊女にのめり込んでいく男たちが宿していた目だったから。










「せっちゃん、なに考えてるのぉ?」
「鈴の旦那の見る目がおかしいって思ってさァ」
「まぁた言う……僕はこんなにせっちゃんが好きなのに」

どうしたら信じてくれるのぉ……とスズは口を尖らせる。

――大体、今の状況だって刹那には信じがたい。
刹那を熱心に口説くスズを見た女将が「スズさまはしょうがないですわねえ……」と言って、奥座敷を貸してこうして酒を酌み交わしている。


「……思いに応えてもどうにもならない」
「それって…」


刹那はハッと口を押さえる。自分が思わず滑り落とした言葉は予想外だった。
――絆されている、と思ったのはいつだっただろうか。
最初は、スズから女扱いされるのがいやだった。
花街の用心棒は、自分が選んだ道だ。
憧れを捨て、性を捨て、腕っ節一つで生きていくと決めた。
……でも、捨てきれなかった。
スズに綺麗だと、キズなんて気にならない、刹那だから好きになった、と言われると胸の奥がツンとして、苦しくなる。
さらには、彼からお粉の匂いがすると燃えるような激情が胸をしめた。
やっぱり自分なんて、と考えてハッとする日々だった。


そして気づいてしまった――ああ、スズに落ちた、だと。


どうしようもない行き場のない想い。応えても、何もかも捨てた自分は……スズの重荷になるだけだと思った。


「いいや、忘れてく……」
「嫌」


スズは、緩めていた頬を引き締め真剣な表情をする。その表情に驚いた刹那だったが、すぐに激情のまま「なんでどうしてオレなんだよッ! この街にはもっと……」と口にしそれをスズは大声で「僕にはもう刹那しか見えないだよッ!」と怒鳴り、刹那の腕を取って床に組み敷いた。


「っ……」
「なんで、どうして、とか、僕だって分からない! ただ、せっちゃんがいい。せっちゃんじゃなきゃ嫌だ!」


駄々をこねるように言うスズの顔は、悲痛に歪んでいた。きつく唇を噛んで、眉間に皺を寄せる。ただ目だけは煌々と燃え、刹那を射抜く。


「僕はせっちゃんが好きだよ。愛してる。この場で抱きたい。僕だけが恋うばかりで、せっちゃんはどうなの……ねえ!?」
「オ、レの……気持ち、は……」


苦しいほど胸に灯った想いが暴れだす。口にしてしまえば、もう後戻りは出来ない。
だから、せめて、と刹那はスズの背中に手を回し、彼が驚いて目を見張りなにか言おうとするが、刹那は彼がなにか言う前にその形の良い唇に自分のそれを押し付けた。


「……オレは今日だけ、「女」になる」


一度離してそう宣言し、スズが失望の目を向けてくるのが悲しい。
それでも、スズは頷いて刹那と唇を合わせ、徐々に深く、甘く、刹那を「女」にしていく。


――これでいい、と刹那は涙をこらえながら、スズの背中にすがりついた。









∴君を恋う
(ねえ、僕を恋しく思ってるなら言葉で応えて)
 
 
 
 




vague」のルカさまのお子様刹那ちゃんをお借りしましたああああ!!!
ツイッターで遊郭パロ遊郭パロ言いすぎて乗ってくださいましたルカさまありがとうごじます^^
これ遊郭パロである必要wwwでもわたしはスズ刹ちゃんが居れば幸せだよ!←
刹那ちゃんがスズに想いを伝えないのは、
元禿=売られてきた=遊女になれなかった代わりに用心棒として雇われ借金返してる=スズと両思いになっても遊郭から出ることはできない、っていう妄想でした(補足がないと分からない話しェ……)
ルカさま快く刹那ちゃんをお貸しいただきありがとうございました!!
もっと魅力的に書けるよう精進します…!

2014/06/17 騎亜羅
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