夜の逢瀬
吸血鬼パロ


月高い真夜中――朝義一流はふわぁ、とアクビを一つし、古い廃工場に足を踏み入れた。手には白いビニール袋。それをシャカシャカ鳴らしながら、雑音避けだった音楽プレーヤーを切り、ポケットに突っ込んだ。慣れた足並みで廃工場を進む。今にも崩れ落ちそうな階段を登り、奥へ奥へと進む。そして彼は、事務室と書いてある部屋の前で立ち止まり扉を開けた。机や椅子が壁に寄せられ、部屋の中央には真っ黒な棺が置いてあった。彼はそれに何の疑問も抱かず、乱暴に足で棺を蹴って開けた。

ガンッ!

乱暴な音で棺が開く。中には――一人の少女が入っていた。――年齢は一流と同い年くらいだろうか。青白い陶器のような肌と肩につくくらいの真っ黒な髪が印象的だった。自分を起こした乱暴な音に眉を寄せ、目を擦りながら身体を起こす。

「一流くん……起こすときはもっと、やさしく…」
「この方が手っ取り早いんだよ」

少女は、めんどくせぇ、と吐き捨てる一流を恨みがましく見る。

「もう少し、起こし方っていうものがあると思う……」
「ねみぃんだよ」
「そりゃ真夜中だし……」
「良いから早くメシ食え。……ほら」
「わ、ぁ!投げないでよ!」

怒鳴りながら少女が一流に投げられた袋を見ると、一転してぱぁぁっと笑顔を浮かべた。

「いちご!!!いちごだ!!!うわあああい!!!」

少女はガサガサと袋からいちごのパックを出し嬉しそうに頬擦りする。一流は「……たまたま家にあっただけだからな」と照れくさいのか鼻をかく。少女は花が咲いたような笑顔を一流に向け「一流くん私がいちご好きって覚えててくれたんだね!!!ありがとう!!!」と全力で感謝した。

「……ッそ、そりゃ!あれだけ語られればな!?覚えるに決まってるだろ!」
「ふふ、そうかな? 何はともあれいただきます!!!いちごー!」
「……どうぞ」

一流は嬉しそうにいちごへむしゃぶりつく少女――藍をふっと緩んだ顔で見る。――彼と少女が出会ったのは、つい一ヶ月前だ。

一流はここの町で所謂「札付きの不良」で、売られた喧嘩は買う主義を貫いていた。一ヶ月前、厄介なグループに目を付けられこの廃工場で一方的な袋叩きに遇った。もちろん、抵抗はしたが多勢に無勢。一流はボロボロで指一本動かせない状態で、倒れていた。

その時、助けてくれたのが少女――藍だった。彼は、初め警戒していたが少女のお陰で助かったことで、少しづつ…心を開いていった。

――少女がある意味「特殊」だったせいもある。

藍が、手を揃えて「……ごちそうさまでした」と言う。それに一流は眉をひそめて「おい、まだだろ」と言う。

「い、いや、もうお腹いっぱいだよ?」
「そういうこと言ってんじゃねーよ」

一流はポケットから十徳ナイフをとりだし、親指に刃を当てプツッと薄皮を切った。瞬間、血が親指を流れる。

「…っ」

藍は赤い血を見てコクリと、生唾を飲み込む。魅入られたように一流の親指を見る。一流は藍の口元にグッと親指を突き出す。

「……っ!」
「意外とイテェんだよ。早くしろ」

一流の急かしに抑えていた物が薄れ、藍は一流の血をぺろ、と舐める。瞬間、真っ黒だった目の色が深紅に変わる。もっと、という風に親指を口に含み血を吸う。一流は舌の生暖かい感触に鳥肌を立てる。少しの辛抱だと目を閉じる。…毎回、血をあげるたびに、藍が――若い吸血鬼だと思い知る。若いと言っても、100年は生きている。幼馴染に無理矢理噛まれ、吸血鬼になったと藍はさみしそうに言っていた。別に血は飲まなくても生きていけるらしいが、青白く痩せ細っていた藍を見兼ねた一流が血を与えたところ生気が蘇ったのを見て、定期的に血を与える仲になった。藍はそれを嫌がっているが、本能には抗えない様子で、今のように美味しそうに飲んでいる。

「……は、」
「もう良いのかよ」
「う、うん…ゴメン」

藍はおずおずと一流の親指を口から放す。つぅ、と唾液が糸をひき、一流はカッと顔を赤くすると無理矢理藍の口元を拭う。――吸血鬼の唾液には、治癒の能力が備わっているせいか、一流の指は早々と塞がっていた。一流のケガもこの能力で治してもらった。

「い、いたいよ !一流くん!」
「う、うるせぇ!もう帰る!」
「あっ、一流く…」

一流はすくっと立ち上がると、早足で部屋を出た。すぐそばでしゃがみ真っ赤になった顔を手で覆い、「クソッ」と吐き捨てる。あっちにとってはただの食事行為にいちいち反応して恥ずかしい。そこへ、恐る恐る藍が顔をだす。

「い、一流く…怒った…?」
「…べつに」

ぶっきらぼうに言うと藍はショックを受けたようで泣きそうな顔で「も、帰る?もう、来ない?」と聞いてきた。一流はそんな藍を睨み、ため息をついて立ち上がった。

「い、一流く……」
「バーカ!…んなこと言うかよ。怒ってねーし、今日だって朝までここに居る」

そう言った瞬間、藍は嬉しそうに頷いた。一流は照れ臭そうに頬をかき「…本当、吸血鬼ってよくわらねぇ」とつぶやく。何せ毎回「一流くん、飽きたら来なくなっていいからね」と言うのに、帰ろうとすると寂しそうな顔をする。

「一流くん今日は何して遊ぼうか?」
「なんでもいい」

――この寂しがり屋の吸血鬼の永遠という時間がまぎれるなら、そばにいれる限り一緒にいよう――それが命を救われた一流のせめてもの恩返しだった。

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一流と吸血鬼藍パロ(^^)/
藍→百年前吸血鬼の一族で人間に紛れてた幼馴染(薫)からかまれ吸血鬼になる。いちご大好き。今日も〜の藍より病んでないし子どもっぽいけど、達観してる部分がある。さみしがりや。死にたくて、血を飲んでなかったけど、リンチにあっていた一流を助け知り合い、一流が好きになり死ぬに死ねなくなった。血を飲むと目が赤くなる。

一流→不良。グレにぐれてる。廃工場にいた藍に命を救われる。それから、興味を持ち何度か会ううちに居心地の良さに三日に一回くらい会いに来るようになった。血の気が多いから少しくらい血をあげても平気くらいに思ってる。藍と会うために最近寝不足。やっぱりツンデレ。
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