「騒乱の大輪」千百合→小虎
※「騒乱の大輪」13ページ読後をおすすめします。














「は……」



千百合は部屋に篭り考え事をしていたが結論が出ないまま間借りしている山月家の一室から出てきた。小虎やショウ、スズの見えないところで彼女は息を吐くフリをして、ため息をつく。高坂家から逃げ出して山月家に匿ってもらって一週間――とても心苦しく悩ましい…幸せな日々が続く。



この日々を甘受していたのも、数日。家や組員に迷惑をかけていると自覚し始めた千百合の心は重く沈んでいた。……ただ、家には戻りたくない。そんな矛盾が心を重くしていた。



部屋を出るとリビングにはテレビが付けっぱなしで、誰もいない。



「山月くん……?」



リビングには小虎が居るハズだった。千百合は、正午過ぎまでバイトをして甲斐甲斐しく家事をこなす小虎の姿をトイレに立った時に見ていた。



取り敢えず誰もいないならテレビを消そうとテーブルまで近寄ると――





「あら……」





小虎はソファに座って、こんこんと眠っていた。家事を終えてちょっと一休みとでも思ったのだろうか。バイトの疲れが出て眠ってしまったように思える。



「……タオルケット」



夏とはいえ彼をこのまま眠らせておくのは忍びないと、千百合は自分が使わせてもらっているタオルケットをそっと彼にかけてあげた。ついでに、と彼女は彼の隣に座りじっと彼を見つめた。



傷んでくすんだ金髪。

感情と共にくるくる変わる顔。

意外と筋肉がついている身体。





千百合は思い出していた――小虎に関わって始めて知った彼のことを。





……思っているよりもずっとお節介で、面倒っていうのに情に熱い。理不尽なことがきらい。幽霊が苦手で、心霊番組もこわがる。照れるとかわいい。クラスがすき。人に頼れる強い人……





「…たった三ヶ月、一緒に居ただけなのにたくさん、知れた」



小虎は知らないだろうが――千百合はずっと小虎を好きで目で追いかけていたのだ。告白するまでずっと――。



「このまま、一緒に居れたらいいのに」



そっと彼の髪に指を絡ませ、悲しげに呟く。この日々はそう長くは続かない。千百合が心苦しさから出ていくか、高坂組が見つけるのが先か――



「ん…こーさ…か?」





――と、また思案していた時、小虎の目がうっすらと開いた。千百合は慌てて手を引っ込めた。



「……おはよう」
「あ…俺寝てたか…?」



小虎は寝惚け眼を擦りながら、千百合を見る。小虎は普段はキチッとしているのに、寝起きからか気だるげな様子に、千百合はドキッとして、目を逸らす。



「お……起こしてしまった…かしら?」
「いや…あ…タオルケット、高坂かけてくれたのか?」
「……うん」
「あー、昼寝するなんて……暑さとバイトのせいだ。バテ気味だな」



小虎はそう言って苦笑する。何も気付いていない小虎に、千百合は内心ほっとする。小虎は畳んだタオルケットを片付けるようと立ち上がり、千百合は慌てて立ち上がり「あ、わたしが、」と小虎からタオルケットを奪おうとしたが「いいよ」と良い、不意に。



「タオルケット、ありがとうな」
「あ……」



優しい微笑みと共に、ポン、と頭に手を置かれ、千百合は固まる。小虎は何も気付かずそのまま「さーて、洗濯物干さないとなー」と言って、風呂場に消えた。瞬間、千百合はしゃがみこみ、真っ赤に染めた頬を両手で覆う。





「……これは、わたしの心臓が止まるか、お兄ちゃんが見つけるのが、早いか、の勝負ね……」





――きっとわたしの負け、という小さな呟きは誰に聞こえることもなく、山月家のリビングに消えた。








∴その優しさで息の根を止めて
 
 
 
 




2013/12/25 騎亜羅
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