――キーンコーンカーンコーン・・・



「なんだか、ムネ、イラついているようだけど」
「……そうか?」



隣を歩く友人に「授業中、貧乏揺すりするときは大抵、イラついているじゃん」と言われ、ああ、そうだった、と思う。俺は苛ついている。何に対してだろうか。分かっているが、少し複雑だ。



「俺でよければ相談に乗るけど?」
「ああ、また今度お願いするよ」



複雑で上手く言えないし、言ったところでのろけになってしまうかもしれない。そう危惧した俺が口を閉じたとき――ダダダッと勢いよく走ってくる音がして、音がする方を向くと。



「せんぱああああい!!!」
「あっ?」



何か聞き覚えのある声、と思ったら……彼女で、俺の数メートル前でジャンプした。



え、と思ったときには、彼女は俺の目の前に着地し俺の腕をとっていた。



「……ぶわあ!?」
「宗正先輩のご友人、すまない、先輩をお借りする」



そう言い捨てると、俺を連れて疾風のごとく篠塚は走っていく。





なんなんだ、と腕を引かれながら俺は……笑っていた。





















人気のない校舎の片隅に連れ込まれた俺は、篠塚に抱きしめられた。


「先輩っ……ああ、先輩……先輩の匂い、低い声、そして美尻」
「こら、揉むな!」
「宗正先輩……」


艶やかな声で呼ばれ、ぞくりとする。学校で色香を垂らすな。


「なに、どうした? なあ、篠塚?」
「ん。ただの充電だ。ここ数日、テストのせいで先輩に会えなかったからな!」


無邪気な笑顔でそう言われ、すぅ、っとイラつきが消えて行った。そうか。そういうことか。


篠塚が、数日俺の家に来なかった理由は。


「テストって……」
「数学のテストだ。これを落とすと単位が危なくてな……私はどうにも数字には弱い。だから友達の家に泊まり込んで教えてもらったのだ。プチ勉強合宿&禁欲だな。死ぬ」
「どうしてメール一つ寄越さなかったんだ?」



自分でも分かるくらい不機嫌に言った。篠塚はきょとん、として「連絡を寄越さなくても大丈夫かと思った」と平然と言う。



「俺でも心配する」
「え、でも、先輩、」
「毎日のように襲われて、会いに来てくれたやつが突然来なくなったら不安になる」
「あ……ごめんなさい、ちっ違うんだ先輩! わたし自身、連絡を取ったら集中出来なくなると思って、」


俺の不機嫌にあわあわと慌てだした篠塚が可愛い。


「いい、もう怒ってない」


彼女の前髪かきあげ、額をくっつける。「そ、そうか?」と窺う篠塚に頷き「でも、数学くらいなら俺が教えた」と主張する。


「先輩がそばに居るだけで欲情するのに、一緒に勉強なんて集中出来ない」
「そこは我慢しろよ」
「むり。今、この距離でも…耐え難いのに」


するり、と頬を撫でられ彼女はそうとう我慢していたのだと分かる。



「もう堪えなくても、いい」



俺は自信が持てるほど、彼女に愛されている。顔を近づけちゅっと軽くキス。そのまま唇を食み、彼女を誘う。俺から誘うのは、まず珍しい。



篠塚の目が妖しさを帯びる。



「先輩……ここで襲っても良いのか!?」
「ここじゃなく部屋ならいくらでも」
「先輩!」



身体を絡ませた彼女は俺にキスをし「うれしい」と囁き、パッと身体を離したかと思うと俺の腕を引いた。



「早く行こうっ!」
「はいはい、俺は逃げない」
「むしろ、わたしが逃さないぞ?」



挑むような目で言われ、ふっと笑う。



ぜひ、そうしてくれ。と望む俺は、彼女に溺れているんだろう。








∴もっと、溺れさせて

可愛い話だったんだけどなああ……
7月15日 騎亜羅
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