風呂に入り鏡を見ると、背中や首、全身に赤い鬱血の痕があり、顔をしかめる。いつのまに。



「篠塚、」
「んー、なんだ先輩?」


 むっつりと俺のシャツを着ながらベッドでゴロゴロしている篠塚を咎める。腰まである髪がシーツに散らばりなんとも言えない事後の色気を振り撒いているが無視。


「痕をつけるなって何度言ったら分かるんだ」
「マーキングくらい良いだろう? 本当は全身につけたいくらいだ」


 まったく反省の色が見えない篠塚。マーキングってなんだ。俺を好きになる異性なんて少ない。目付きは悪いし、男所帯に居るせいか女なんて近寄らない。


「お願いだから見えるところにはつけるな。周りになんだと思われる」




 そう言うと篠塚はにっこりと笑い、




「い や だ」




 一文字ずつ区切って言いやがった、コイツ。


「むしろそれが目的だ。先輩は、私のものだと見せつけるための」


 にんまりと笑い「独占欲も強いんだ、私は」と公言する。


「俺はお前に、毎日毎日好きだ、抱きたい、なんて言われてるんだからどこにも行かない」
「そう言われても嫌だ。私は先輩を独占したい。誰かに襲われたときに、そのキスマークをみられてドン引きされれば、良いんだ!」
「俺を襲う痴女はお前しかいない」
「やん。褒めるな!」
「褒めてない」


 はあ、と一つため息をついて「わかった」と譲歩案を出した。


「一つ、見えるところにはつけない。一つ、背中や腹は許す。一つ、消えたらつける。これを呑めるなら、痕をつけても良い」
「呑めないなら?」
「一週間おあずけ」
「!!?」


 その時の篠塚の絶望的な顔と言ったら、思い出しただけで笑える。


「……分かった。譲歩案を呑む。先輩は意外と鬼畜だ」
「俺はこんなに優しいだろうが」


 篠塚は不満そうにムッと口を尖らせる。


「確かに先輩は優しいが!私に禁欲しろというのは酷だ!私は……他の女子に先輩をとられたくないだけなのに!」
「そうかそうか」


 ベッドに座り、篠塚の髪をくしゃとかき回す。自分の欲望を躊躇なく口にする篠塚が可愛い、と思う俺は彼女に相当毒されてる。



 ベットに寝転がる彼女を抱き込み布団にひきずりこむ。



「先輩?」
「篠塚、嫉妬してくれるのは嬉しいが、俺と親しい女子はあまりいない。だから安心しろ」


 篠塚は目を見開き、何度か瞬きを繰り返す。信じられない、とでも言っているようだった。


「篠塚?」
「いや、あの、先輩がそんなこと言うとは思わなかったからな、その!」
「あ、照れてるのか?」
「て、照れてなどいない!」


 そう言うが耳が真っ赤だ。その不意打ちにニヤリと笑う。腕の力を強め「お前も照れるんだな?」と言う。


「私が照れるわけない!」
「じゃあこっち向いたらどうだ?」
「……む」


 俺から顔をそらした篠塚の額にキスを落とす。「からかいすぎた」と謝れば「私は……照れてなどないからな!」と顔を突き合わされて言われる。


「お前は意外と意地っ張りだ」
「意地っ張りでもない!」
「ん。分かった分かった。もう寝よう」


 ぽんぽん、と彼女の頭を叩くと、唇を奪われた。おいおいやる気か? と思ったが苦虫を潰したような顔で俺の胸に収まった。


「……寝る。宗正先輩の馬鹿!おやすみ!」
「ああ、おやすみ」


 背けられた身体を見ながら、堪えきれない笑いを噛み殺す。


 ――篠塚の寝息が聞こえてきた頃、俺も彼女の背中にマーキングをつけてみた。白い肌に咲いた赤い花。……えろいなあ、なんて。そして、彼女が見つけてどういう反応をするか――少し想像して「楽しみだ」と笑みを浮かべながら寝た。






 ――発見した彼女が「先輩が私にキスマーク!!!!先輩!先輩!もっとつけてくれ!」と迫られるのは、明日の朝。




勘弁してくれ、とこれに際しマーキングに、懲りた。






∴赤いマーキング


身体があまあまを求めている……!!!!
7月10日 騎亜羅
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