私は走っていた。自分で言うのはなんだが、足と腕は長い。適度に筋肉もついている。走るのは早い方だろう。

「でも、遅い!」

足を限界まで大きく、早く動かしても、遅い。速さが足りない。この足は棒切れみたいだ。もっと、もっと限界まで速く!


早く早く早く――宗正先輩のところへ行きたいんだ、私は!



――今日の昼、先輩からメールが来た。『予定がないなら一緒に帰ろう』と。



嬉しさで携帯を壊しかけた。メキッて言ったけど大丈夫だよな、私のガラケーくん?


先輩から誘われたら、予定があっても駆け付ける。何がなんでも彼を優先する。先輩から何か誘われるなんて初めてだ。嬉しい。自然とつり上がる口元。それを見た友人が「気持ち悪いよ、華夜」と言ったのは記憶に新しい。「止めろ、誉めるな……私のM部分が刺激されるだろうが」と返したらゴミを見るような目で見られた。友人のシベリア級の視線の冷たさは、ゾクゾクするから堪らない。先輩が居るから堪えるが。




――先輩は校門前に居た。カッと目を開き「先輩!宗正先輩!」と遠くから先輩を呼ぶ。




先輩はいじっていた携帯を閉じ、私を見た。……ああ、カッコいい。凛々しい顔に惚れ惚れする。通りすがりの女子が先輩を見る。先輩は、カッコいいからな。でも惚れてはダメだ。――彼は私の物だ。



「せん、ぱ……い、はぁ…はぁ…」



さすがに全力失踪でここまで来るのは息が切れた。膝に手をつき肩で息をする。先輩は平淡な声で「急いでないし、別に走って来なくても」と言う。


「はぁ…私がはやくっ……先輩に会いたかった、んだ……」
「……」


素直に本心を言うと頭を撫でられた。


「先輩?」


先輩は笑わないが、機嫌が良さそうだ。目を細めて「そうか。そうか」と頷く。


「帰ろう。どこかでお茶するのも良い」
「私に、何か用があったのではないか?」



例えば、夜の誘いや夜の誘いではないのか? それともこのまま、ホテルにゴーするのか?




「……きょとんとしているお前の考えてることがなぜか分かってしまう自分が、憎い」
「?」


私は文字通りきょとんとする。なぜ先輩が苦々しく私を見るのか分からない。


「用は、これからデートしようって誘いだ」
「!!!?」


先輩にストレートに言われてやっと理解した。私は驚く――でも、あのメールはそういった意味を含んでいたのだ。うわあ、うわあ、うわあ!


「デートに誘われたのなんて人生初だ!」
「は?」
「しかも先輩が!宗正先輩が誘ってくれた!嬉しい!キスしたい!襲いたい!」
「やめろ。――デートに誘われたのが初めて?」


先輩は「嘘だろ?」という目を向けてくる。でも、嘘ではない。


「私はセフレは居たが、彼氏は先輩が初だ。ずっと一個上のお姉さまに恋をしていたからな!」
「…普通は彼氏が居てセフレは居ないものだ」
「有り余る性欲はシングルじゃ発散できなかったんだ!先輩に恋してからはすべて切ったが」


禁欲生活は苦しかったが、大好きな人と夜を(たまに昼も)過ごすのは、大変満たされるものだ。たまに、手癖悪く前菜として、中高一緒だった後輩を食べたくなるが。周りからロリコンと呼ばれていたが、童貞卒業したのか、アイツ?


「だから、デートなんてしたことがない」
「お前くらい美人なら引く手数多だろうに」「童貞ウマーなんて公言する変態と付き合いたいと思うか?」
「……お前な」


呆れた視線が突き刺さる。ゾクゾクするから止めてくれ……ああもうどうして先輩は私を興奮させる天才なのか。


「……鼻息荒いぞ。生唾を飲み込むな」
「先輩がそんな目で見るから!」
「妄想が逞しすぎる……」


本当に呆れられ、このままじゃデートも断られるかもしれない!と焦り、彼の服の袖を掴む。


「でも、先輩っ、私は先輩とデートしたい! 今すぐホテルに駆け込みたいが、デートもしたいんだ!誘ってくれて嬉しかった!」


誰よりも先輩が誘ってくれたのが嬉しくて、必死で嬉しかったと伝える。断られたらと考えて……ベッドインより緊張している。


「元からホテルは行くつもりはないし、デートはする」
「!」


するりと、服を掴んでいた手を握られ心臓が高鳴る。




どうしてだろう。




「――」
「篠塚?」
「……先輩、私は変だ」
「お前が変なのは、知ってるが」
「先輩、宗正先輩に手を握られただけなのに、すごく緊張している」



身体を重ねるよりも、手を握られた方がドキドキする。



心拍数が跳ね上がり、身体が熱くなる。




「篠塚、お前……まさか手も繋いだことがないとか、」
「ない。誰とも付き合わなかったからな」


恋をしているのに、誰かと付き合うのは不誠実だと思った。だから、カップルには手出ししなかった。


ただ、身体だけの関係なら許せた。お互い欲しいのは、相手の「心」ではなく「身体」だけだったからだ。


先輩は一つため息をつき、「分かった」と一言言って続けた。


「……教えてやる。エロいこと以外、カップルがするようなこと、全部」
「調教されるのだな!先輩に!」
「公共の場で恥ずかしいことを言うな……もう行くぞ。さすがに人目が気になる」


そう言って先輩は、私の手を引いてくれた。昔……少し、羨ましかった。中高と、窓の外から眺めたカップルは、仲睦まじそうに帰っていく。私は、一生、そんなこと出来ないだろうと思っていた。


「宗正先輩、嬉しい。今、とても私たちはカップルっぽい」
「カップルだろうが」


私は自然と目尻と口元を和らげ笑う。嬉しい。嬉しい。嬉しい! キスよりセックスよりも、嬉しい行為があったなんて知らなかった。


「先輩っ、やっぱりホテルに行こう!この嬉しい気持ちを先輩に奉仕して……」
「黙れ」
「黙れない!先輩先輩先輩先輩先輩宗正先輩!好きだ!もう性欲が抑えられないくらい!聞こえているか!宗正先輩!」


先輩はポーカーフェイスを崩さず、私の方を見ずに「ああ。そうか」と言うだけだった。でも私は知っている。先輩が、微かに笑ったことを――。



∴芽生える愛しさ


変態性は相変わらずですが、篠塚視点でかわいい篠塚を書いてみました(笑)
先輩先輩先輩!!連呼している篠塚が犬にしか見えませんwwww
私のなかで篠塚は「性の知識は有り余ってるけど、普通を知らない」みたいな?(笑)
先輩がびっくりするのも当たり前ww
先輩と手を繋いだ篠塚は、ハートマーク飛ばしてると思います^^



7月5日 騎亜羅
[←戻る] [←main] [←top]





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -