「ムネ、彼女出来たの?」 「なんで知っている?」 ソバを食べながらにこやかに笑う友人に聞き返すと、「この前知らない女の子と歩いてたからさ」と言われる。ちなみに、「ムネ」とは俺の事だ。宗正だから、ムネ。 「そうか。出来た」 「あはは、ムネは簡素だなあ」 「簡素って……まあそうかもしれないが」 食堂で頼んだカツ丼が来て、箸を割り食べる。食堂のカツ丼は、安価なのに卵がとろとろでうまい。 「随分綺麗な彼女だったね。ムネも趣味が良い」 「……そうか?」 友人は手放しで「彼女」を褒めてくれるが、中身を知ったら驚くどころか卒倒するだろう。――俺の彼女、篠塚華夜は10人が10人振り向く美人だが中身は、ドSでドMの快楽に弱い「変態」だ。朗らかに笑う、この線の細い友人には紹介出来ないだろう。 「大学で見たことないけど、一個下?」 「ああ、女子大二年」 「へえ……付き合って何か月?」 「一か月くらいか」 「デートとかしたの?」 「……デート」 ここ一か月、彼女と何をしたか思い出してみる。 『先輩、好きだ。ということで襲わせてくれ』 『半裸ハアハア……』 『宗正先輩、もう限界だ抱かせてくれ!』 ――脳内がピンクな、友人に言えないことしかしてなかった。 「その顔はしてないね? ダメだよ、彼女は大事にしなきゃ」 「……すまない」 軽く説教され、謝ることしか出来ない。別に俺は悪いわけじゃない。万年発情期の彼女が悪いんだ。 「年下の子に、夜の悪い遊びとか教えちゃだめだよ」 「……俺が教えると思うのか?」 「ははは、冗談だよ」 むしろ、教えるまでもなく俺より知っているし、逆に襲われて教えられている。それを情けないと思いつつも、迫られれば男の理性なんて紙屑。付き合って一か月のカップルが、ベッドの上で絆を深めてどうする。いや、それが悪いとは思わない。野獣のような彼女を理解する一歩としては適切だと思う。 でも、デートくらい連れてってやるのが男側として、普通じゃないのか? 「デート、誘うなら男側からだよな」 「そんなことはないと思うけど、誘われて嬉しくない女の子はいないはずだよ」 「考えておく」 「ムネは真面目だなあ」 考えておく、というか、誘って彼女が了承するか、なんだけどな。規格外だから、どこに誘って良いか分からない。普通に、映画とか水族館とかで良いのか? ……風俗に行きたいって言われても断ろう。まず、無理だ。 「あれ、ムネの彼女じゃない?」 「は?」 「ほら」 友人に言われて後ろを振り向くと、本当に彼女が居た。――提携している女子大とN大の食堂は共用だ。普段はお弁当だと言っていたが、友達の付き添いだろうか。 「噂をすれば、だね。手でも振ったら?」 「キャラじゃない」 「でもさ、みんな見てるよ?」 友人は意地の悪い笑みを見せ、「良いの?ナンパされるかもよ」と言われる。今日の髪型はポニーテールで、少女だった頃の昔を彷彿させた。昔より随分髪は長くなったが……しかし、友人の言う通り目を引く。 シャキッと伸ばした背と、ころころ笑う顔が、可愛い。いつもこうなら良いのにな、とつい思ってしまうのはしょうがない。そんな姿じゃバカな男どもの視線をさらっていくが―― 「ナンパされても断るさ」 「随分な自信だね」 「根拠はないが」 「ダメじゃん!」 そうと言われても、毎日「好きだ」と言われ襲われていれば根拠のない自信もつく。でも、そうだな……なけなしの独占欲を見せようか。 「ごちそうさま」 「いっちゃうの?」 「ああ、良いから」 友人を立たせ、食器を片づける。すぐ近くには食券を持ち、料理が出来るのを待っている彼女。 「……篠塚」 「!」 出口前で少し大きな声で彼女の名前を呼び、小さく手を振った。 「!!!!」 もう犬が喜ぶように破顔し、手を振り返してきた。それを満足そうに一瞥し、食堂から出た。 「うわあ……あざといよ、ムネ」 「ほざけ。手を振れって言ったのは、お前だ」 ――周りの男子たちの「ぽかん」とした姿が圧巻だった。すこし、上機嫌になってそのあとの授業に臨んだ。 ――まさか、サークルの同期、先輩や後輩に見られているとは知らず。 「あれは誰だ」「お前の彼女か」「タヒ」――根堀葉堀聞かれてぐったりするのは、また放課後の話。 ∴笑みをころして あざと宗正先輩www 2013年07月04日 騎亜羅 [←戻る] [←main] [←top] |