※千百合視点でside*4-07後の千百合の想い



あの場から逃げ出した途端、ギシリ。ひどく胸が軋んだ。廊下はなぜか騒がしくて、でもそんなことを気に止める余裕もなく、学園の校舎裏に駆け込んだ。


ここは、陽が当たらずひんやりと冷たい。ベンチもなく、雑草しかない。でも自分の頭を冷やすには十分で、落ち着く。


真新しい壁に背中をつけて、そのままズルズルと座り込んだ。先の自分の態度にひどく自己嫌悪した。泣きたい。泣かないけど。


ここは私の逃げ場所。かなしいとき、くるしいとき、つらいとき、なきたいとき……負の感情が自分のこころをしめたとき、ここに来て頭を冷やす。そういえば、ここで山月くんに告白したわね……そう思った瞬間、悔しいほど、山月くんと……お似合いな成原さんが思い浮かぶ。


山月くんを知ろうと思ったときから隣に居たのは、成原スズさんと風の噂で幼馴染みだと知った媛路彰陽くん。いつも三人は一緒に行動していると聞いた。実際、校舎内で見た山月くんは大抵その二人とふざけたり、笑い合っていた。



『スズ、』



彼が強く「彼女」の名前を呼んだだけで、彼女は目を細めて引き下がる。そこに込められてる意味が分かるほど二人は、一緒に年月を過ごしてきた。


分かってる。やっと1ヶ月前に告白し見てもらえた私と、小学校から一緒だったという「彼女」、どっちが彼の気持ちを解って……お互い相手の思うことが分かるかなんて。


彼女の挑発とも思える言動なんてこれっぽっちも気にしてなかった。この前だって、今日だって。親密具合はどうだろうと……戦う土俵は一緒。それに彼は――誰に対しても大抵、態度が同じ。みんな「友達」だから。それはずるくって私に優位。


そう思っていた。


でも、胸をしめるのは「嫉妬」。確かに彼女に対しドロドロとした感情を抱いた。親密度が違うということに心が焼き千切れそうだった。彼女は彼にたいして優越を持っている。彼は彼女にたいして特別とはいかないまでも信頼している。それが二人の間で滲み出ていた。


「負けて、なんてやらない」


唇を歯噛みし、悔しさを噛み締める。新入生歓迎会で、GWで縮めた距離を0になんてさせない。私の努力は無駄じゃない。


噂上の「有名な人形」から「友達」に成り上がったのだから、その先だってあり得てもいいはず。


制服のポケットに入れていた桃色の輝石のブレスレットを取り出した。GW以来、ずっと持ち歩いていたもの。アクセサリーの着用は校則違反だからって制服のポケットに入れていたけど、もう気にしない。


「……自信と勇気をください」


そう呟いて右手首にブレスレットをつけた。



∴恋慕パトス
(恋は見栄と空元気、荒れる心は不安でいっぱい)

















※中身は情熱を秘めたちーちゃん。小虎が大好きでしょうがない。でも小虎はふらふら。まだまだ勘違いが続きまーす(さすがに可哀想になってくるんだけどね……ちーちゃん気づけ……!
20121111騎亜羅
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