Aphorism Paranoia
04


「まず、あんたのいた世界とこの世界の決定的な違いはなんだ?」
昨日と同じように、フロウドはコーヒーのコップに口をつけながら俺に訊ねた。それに坂城が口を挟むように納得する。
「なるほど、まずはそこからハッキリさせて認識のズレを正すのか」
「そういうこと。あっちのことは俺ら知らないし、そこらへんの溝も埋めとかないと」
…すいません、ついていけません。
「おい、ポカンとするな、お前に聞いてるんだぞ」
「え?あ、あぁ…」
坂城に促され俺はなんとか頭を働かす。
そういえば坂城は学年首席でフロウドは言わずもがな雪白と張り合える頭脳の持ち主なんだよな…。底辺とは思いたくないが学年順位の下位層をさ迷う俺とは次元が違うわけだ。ちくしょう。
「えーっと…何から話せばいいんだ…?」
「向こうと全部が全部違うわけじゃないんだろ?違うのは、季節と、あんたの周りの人間との関係とその人間の人格や性格。把握してるのはこれくらいか?」
「あぁ…」
「他に、ないか?」
「……わかんねぇ…」
「…そうか」
そうだ、俺は何もわからない。そもそも何でこんな超次元な現象に巻き込まれたんだろう俺。
そこへフロウドが助け船を出すように言う。
「仕方ないかもしれないな、人間の心理上。本人の中ではやはり人間関係が気になるところか?優先順位はついてしまうものだし、それによってだいたい正確な判断はできなくなってしまうものだ。最初こっちにトリップしてきたときあんたは季節が冬から夏に変わっているのにも関わらず彼女のことを心配したんだろ?それと同じさ、今だって友人の劇的な変化が気になって仕方がない…違う?」
「…いや、違わない…」
フロウドはペラペラと小難しいことを並べる。だが俺にもちゃんとわかるように噛み砕いて。こっちのフロウドはどんだけ親切な奴なんだ…っ!感動で涙が出そうだ。
「朝義、俺とお前はどんな関係だったんだ?こっちでは登下校昼食夕食を共にするくらいは仲がいいぞ」
「うわそんな四六時中お前と一緒とか考えらんねぇ…」
「え、ひど」
「あっちでは所謂犬猿の仲って奴だったな。俺は不良で、奴は風紀委員。素行悪くするたび追いかけ回しやがって…」
「ま、待て朝義」
「あん?」
「お前今不良と言ったか?」
「おぉ」
「そんな琴子さんが泣くだろ!!」
「俺が不良かどうかは今はどうでもいいんだよ!!」
真面目腐ったと思ったらこれか!!確かに母さんには悪いと思ったけど!!今はもう更正して真っ当に生きてるよあの時代は厨二な2つ名の黒歴史だよ!!
くっそーっ!!この野郎余計なこと思い出させやがってーっ!!
うがーっと頭をぐしゃぐしゃしていると「荒れてるな」「あぁ、荒れてるな」という会話が聞こえてきた。誰のせいだ誰の!!
「まぁまず現状整理にさ、どこから食い違ったか考えてみたら?」
フロウドは坂城、俺と目配せして「ほら」と指差す。
「2人は幼馴染みなんだろ?だったら簡単な話し、小さい頃から思い出を暴露し合えばいいじゃないか。どこからパラレルに分岐したのかハッキリするだろ」
「ってもなぁ、向こうでは坂城と仲悪かったから……あ?」
ちょっと待て。
思えばどうして俺と坂城は仲が悪いんだ?風紀委員と不良だから?いやいやまさか、そんなことで坂城は俺に突っ掛かってこないし、俺も突っ掛かってやらない。そもそもどうして俺は坂城が嫌いなんだ?どうして犬猿の仲になったんだ?
…心当たりはある。ガキの頃、母さんが坂城ばっかり構うから俺が一方的に嫉妬心丸出しにして八つ当たりして…そう、それだ。それから坂城と俺の仲に亀裂が入って、坂城は一人になって嫌な役割を背負い始めて、俺はそれを期にちょっとした反抗期になって、喧嘩という苛々の捌け口を知って。たぶん、それだ。坂城との仲関係はそれしかない。その『出来事』が、この世界ではなかった?
「な、なぁ坂城、こっちの俺は不良じゃなかったんだよな?」
「少なくとも喧嘩はしなかったぞ」
喧嘩をしない俺って、どんなだ?人を殴った後の爽快感も、拳の痛みも知らない。路地裏の冷たさも、大人数に囲まれる恐怖もしらない。普通に、真っ当に、そこらへんで真面目に生きてる奴となんら変わらない一般人の俺。
フロウドの言葉を思い出す。
俺が不良じゃなかったら、何が変わった?不良だったら、何が変わっていた?
俺が不良の第一歩を歩んだのは坂城とのいざこざがあったからだ。だがこっちの世界ではそれがなかった。だからこっちの世界の俺は不良じゃなかった。でも、そこじゃない、決定的な何か。出会いが…
藍が過った。
藍と出会ったのは、6月の、雨の降る路地裏。俺は喧嘩して怪我してて、通りかかったあいつが俺を突き飛ばすついでに傘をおしつけてきて…
考えろ。何故そこで藍と出会うことができた?アンサー、それは俺が不良で喧嘩して怪我してたから。
ならば鴻季だ。そもそもあいつの敵討ちで怪我したんじゃねぇか。あいつとの出会いは?確か中二の時、あいつも喧嘩三昧で、自分よりガタイのいい歳上の奴ら相手に大盤振る舞いをする鴻季を見掛けて加勢して、流れで仲良くなって…雪白や平野とも鴻季を通して知り合って…
ああああああこんがらがってきた。ダメだ、こういう頭脳系は専門じゃねぇんだよ。
ないじゃないか、決定的な出会い。
藍。
鴻季。
平野。
雪白。
フロウド。
シルフィー。
ドミノ倒しのように、まるで連鎖だ。
鴻季と出会わなかったから平野とも雪白とも出会わなかった、鴻季の仇討ちをしなかったら藍とは出会わなかった、藍と出会わなかったらフロウドたちと屋上で会うこともなかった。一生繋がりそうもない相手と、誰かが結んでくれてる。まるで、連鎖。ならば全ての始まりは?起因は?原因は?
俺が『そう』だったから、『そう』なった『それ』は?

それは、俺が不良だったからだ。

「なら…この世界は…」
「朝義…?」
訝しげな表情で俺を見る2人を見上げて、俺は答えを吐き出した。

「この世界は、俺が不良じゃない未来の形なんだ」

そんなことで、俺はみんなと関係を繋いでいた。
不良であったかそうでなかったか。

それが始まりだった。








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