Aphorism Paranoia
03


何で夕飯堕眼鏡なんかと一緒なんだよマジふざけんなてかこっちの世界の俺マジでこいつと仲良いのか?信じらんねぇ正気か俺。
…と混乱してはみたものの現実は現実のままだった。
釈然としないまま夕飯を終え、坂城を部屋へ呼ぶ。何の疑問も持たないところがまた気に入らない。
「どうした一流、何か話しか?そういえばお前昼間大丈夫だったのか?突然叫んで走り出すから驚いたぞ」
「いやいやいやいや待ってくれ坂城ツッコミさせてくれお願いだから」
「ツッコミ?漫才でもしたいのか?」
「ちげーよ!いいか、1つずつツッコんで行くからよく聞いとけよ!?まず何でお前が当然のように俺んちの食卓に居座ってるんだよ、吃驚したわ!!」
「何でって…今更何を言っている。今までずっと夕飯は朝義の家で食ってただろう」
「まさかのずっと!?今まで!?もしかして仲良いのか?とかいうレベルじゃなかったマジだった!!」
「仲良いも悪いもないだろ、幼馴染みなんだし」
「まさかのデジャヴ!!…もういいやはい次!!一流とかサラッと名前呼びしてんじゃねぇよ気色わりぃな!!」
「き、気色悪いだと!?お前まさかそれずっと隠して俺と過ごしてきたのか!?」
「そういえば前に俺んちにいる時は朝義だと母さんたちもはいっちまうから名前呼びっつってたよなそうなんだよなそうなんだろ!?」
「いや昔から名前呼びだろ。外じゃさすがに恥ずかしいから高校に入ってからは苗字になったが。お前が言ったんだろ。お前はその前から坂城呼びだったが」
「嘘だろまさかんな理由でかぐああああぁぁっ!!」
「しかし今日のお前はアグレッシブだな、そんなキャラだったかお前。どうしたんだ本当」
「俺が聞きてぇよ!!ツッコまなければならない何かがあるんだ!!そこに!!」
「…そうなのか?いやしかしいきなり別人になったみたいでな…心配してたんだ」
坂城の言葉で全力でツッコミする頭が急激に冷えていく。
そうだ、こっちの世界の俺と今の俺は中身が違う。そのギャップがあるのだ。それを把握するためには坂城を頼るしかないのだ。
「…とりあえず、座れよ」
「?、あぁ」
俺の部屋の中央の小さいテーブルを挟んで座る。俺は小さく深呼吸をして、坂城を見据え、「実は…」とパラレル云々今の俺は違う世界の俺なんだ云々…フロウドの話しの中身を俺なりの拙い言葉で話し出した。
坂城は時折眉を潜め、終始困惑した顔で俺を見つめ返していた。
「……ってことで、少なからず今の俺はお前の知ってる俺じゃないんだ。見た目はたぶん同じなんだけど、アグレッシブなのも説明がつくだろ?」
「…た、確かにそうだが…信じられん」
「信じるも何も、事実なんだ。俺はお前の知ってる俺じゃない。それだけは、確実に」
坂城が俺のことを信じてくれるまで、そう時間はかからなかった。

「そこで、だ。あんま気は進まねぇんだが、お前に頼みたいことがある」
「なんだ?お前がもとの世界に戻るのを手伝え…とかか?」
「それもそうなんだけど、まず俺はこの世界の俺を知ることから始めなくちゃならないんだ」
そう、まずはそこから。
今のこの俺と、この世界の俺との差…ギャップを把握しなければならない。その差が大きければ大きいほど俺を知ってる奴らからは不審がられてしまう。
「この世界の俺はどんな奴だったんだ?性格とか、口調とか、なんかあるだろ?」
「ふむ…そうだな。まず一番に言えることは、お前はもっとクールだったってことだな」
「く、クール?」
「クールと言うよりドライと言った方がいいか。今のお前ほど表情をコロコロ変えるやつではなかったぞ」
「…そうか」
「あとそうだな、今の方が」
そうかこっちの俺はドライな奴なのかと思案している俺に坂城は言った。
「素直というか、馬鹿っぽそうで可愛いぞ」
今度こそ俺の拳が炸裂した。

とりあえず今日は帰ってもらった。
また明日話し合うということで話をつけ、無用な家族との接触を避けるためにさっさと風呂に入って床についた。
勘の良い母さんのことだ、ちょっと話しただけで俺が別人(のようなもの)だということに気づいてしまうかもしれない。もう気づいてるかもしれないけど。
微妙に感触の違うマットレスを感じながら、俺は今日の出来事を思い出してしまう。
誰かに殴られて泣いている藍、以前のように喧嘩三昧な鴻季、普段に増して冷めた目をして表情を殺した雪白、鴻季のことをただの野蛮な女としか認識していない平野、どうやら幼馴染みらしく嫌に親身なボケに回った坂城、鉄壁の無表情を崩し無料で頭脳を貸してくれる親切な野郎になったフロウド。
…変わり果てている。俺の知ってる奴らとはかけ離れすぎてて、辛い。
「…パラレルとか…わかんねぇよ…なんでこんな世界があるんだよ…なんで…藍は幸せじゃねぇんだよ。鴻季と平野が恋人同士じゃねぇなんて考えらんねぇ。雪白だって、なんであんなつまんなさそうな顔してんだよ、もっと楽しそうだったじゃねぇか。坂城だって…なんであんな昔みたいに…フロウドに至っては前の人格の片鱗すら残ってねぇし…」
戻りたいと思った。あの世界に、みんながいるあの世界に。
この世界は嫌に寒かった。


7月中旬、期末テストも終わり一週間後に夏休みを控えた鳳有高校は浮き足立っていた。
夏休みといったらアレだ。最悪の始まり方をした。雪白提案の変なゲーム。久遠とか言うワカメ頭が散々人の人間関係をメチャクチャにしてくれやがったあのゲーム。今でも思い出すだけで腹がたつ。こっちの世界のあの野郎も一発殴っとこうか。
…と、それはともかく、今日はフロウドの知恵を借りてこの現状をなんとかしなければならない。
本当にこの世界がパラレルワールドだという確かな確証はないが、他に良い仮説がないのでそれでいくとする。ホントはドッキリでただの演技だったとしても質が悪すぎるし、あんな演技できるようには思えない。だいたい今まで俺がいた世界は真冬だった。季節まで自由に操作できる奴がいるってならそれは神様ぐらいだろう。不可能はない雪白にだって無理だ。
1日なんとか大人しく過ごして、放課後。帰ろうとしていたフロウドを捕まえ(シルフィーには悪いことをしたホント)再び某ハンバーガー店に集った。
「こいつ、昨日話したヤケに馴れ馴れしくなった堕眼鏡坂城正紀。でこっちが、紹介しなくても知ってるだろうけど日本語喋れる留学生レン・フロウド」
「よろしく、坂城だ」
「よろしく、フロウドだ」
「……」
この2人がよろしくだってさ、うわあ。
「ところで…朝義くん?」
「うわやめろそれ!せめてくん付けやめて!」
フロウドが俺のことをナチュラルにくん付けで呼んだことに合掌。一回か二回ぐらいは俺の名前普通に呼んでくれたことはあったけどさすがにくんはない。
「じゃあ朝義」
「うんそれでいいよ」
「もしくはチビ」
「ぶっ飛ばすぞ!!」
「だってあんたの知ってる俺はあんたのコンプレックスを刺激して苛めてたんだろ?なら俺もそれに習うべきじゃないかと思って」
「習わんでいい!俺の傷を抉るな!」
「その方があんたにとって自然じゃない?人のコンプレックス弄り倒して挙げ句ニックネームにする性格最悪のレン・フロウド」
「今は優しくて親切なフロウドさんでいてくださいお願いしますぅ!!」
「最初からそう言えばいいのに」
フロウドは言ってニコリと笑った。周りの女共がうるさい。イケメン滅べ。つうかこいつ露骨なドSじゃなくなった変わりにマイルドなドSになりやがった。なのに親切ってプラマイゼロもいいとこだろ。
で坂城、なんだその目は。
慈しむような目すんな気味悪い!!
「朝義お前…元気だな…あんなドライな奴だったのに…」
「全然元気じゃねーよ!!泣きたいほどテンション低いよお前らがボケかますから俺が仕方なくツッコミにコンバートしてるんだよ察しろよおおおぉぉぉ!!」

何気にこの面子、めんどくさいかもしれない。







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