Aphorism Paranoia
02


パラレルワールド。
なんて非現実、簡単に受け入れられる筈がない。
フロウドが言うには、俺が元いた世界とは別の、同じにして異なる世界がここだと言う。この世界にはこの世界の俺がいて、その同一にして違なる2人が何かの拍子に入れかわってしまったのではないかという仮説を奴はたてた。
「ここからはまためんどくさい話しになるんだけどさ、いいか?ここには名前も体も同じの2人がいます。勿論平行する2つの世界に1人づつね。パラレルワールドは無数に存在しているから2つとは限らないと思うんだけど、この場合は2つとする。名前も体も同じ、似通っているはずなのに異なるのは思考パターン。二者選択を迫られたときの判断。同じ性格をしているけど、その時その時の自分の行動、もしくは誰かの行動によってそこからの運命が左右され、変わる。だから必ずしも同じ行動をとり同じ運命を辿るとは限らない。だから2つの世界は何もかも同じとは限らない。あんたの彼女があんたを知らないのも、えーっと、坂城くん?がやけに馴れ馴れしいのも、全部この世界のあんたの行動の結果なんだ。あんたがしてこなかった…もしくはしてきたことが違うんだから、当然周りだって違うさ。起因は過去だ。今のあんたではなく、この世界のあんたが昔何かをしたか、もしくはしなかったことによって運命が違ってしまった。そこは俺にはわからないけど、例えばこのレン・フロウドという人間はあんたの世界じゃ性格最悪だったんだろ?だったら彼の過去には今の俺にはなかった『出来事』があったんだ。少なくともあんたの反応からして今の俺はそんなに性格ひねくれてないようだし、その『出来事』が俺にはわからないけど、何かがあった。まぁこんなふうに過去が違えば今も未来も変わるってね。これは全部あんたの頭がおかしいこと前提なんだけど、アンダスタン?」
「難しくてわっかんねぇよそして長ぇよ最後にサラッと馬鹿にしてんじゃねぇよおおおぉぉぉぉっ!!」
俺はここが公共の場…某ハンバーガー店だということも忘れて叫んだ。今更ながら周りの客の視線が痛い。そしてこの、同じ席の目の前に座る外国人留学生レン・フロウド。長めの前髪が無くなったかと思ったら現れたのはただの美少年だった。今まで何で知らなかったんだろうこいつの素顔。いや見えなかったのか、性格あんなんだったから。
やはりというか、雪白とも接点がなかった。雪白って知ってるかと尋ねたら「雪白?雪白ってあの大企業の?」と至極真っ当に答えられてしまった。
「何はともあれ、あんたは行かなくちゃならないところがある」
「あ?」
「病院。精神科」
「俺は別に頭おかしくねぇよ!?」
こいつ散々パラレルだのなんだの言っといて俺の話し信じてねぇ。
「早めに行って診てもらったらどうだ?パラノイアを患ってるかもしれないぞ」
「ぱ、ぱら…?」
「パラノイア。別名妄想症」
「だから馬鹿にすんなあああぁぁぁっ!!」
こいつ俺の話し聞いてるだけだ!一切信じちゃいねぇっ!これっぽっちも!!
「しかしおもしろい話を聞かせて貰った。そうか、パラレルか。考えたこともなかったな」
「考えたこともなかったって…さっきまでパラレルワールドについて云々長々と説明したのは誰だよ…」
「ただの知識だろ。それにそんなの仮説に過ぎないし確証がないんだ、仕方ないだろ」
「そうなんだけどさ…」
「もしかしたらパラレルなんかではなくて、ただみんなしてあんたを忘れたふりしてるだけかもしれないぜ?坂城って人もただの演技で、わざと馴れ馴れしくしただけかも」
「…ただのドッキリだってか?」
フロウドはコーヒーを煤りながら続ける。
「そう。もしくはパラドックス。あんたが変わったんじゃなくて周りが変わったか」
「……」
仮説は増える。
この世界の俺とこの俺が入れかわったか。ドッキリなのか。俺を置いて周りが変わったのか。それとも、これはただの夢なのか。いずれにせよ、非現実的だ。妖怪だの幽霊だのイカれた殺人鬼だのとはまた種類が違う。
夢であって欲しい。夢ならば、さっさと醒めてくれ。藍が笑顔でいられる、あの世界に帰してくれ。
「悪いけど」
フロウドの声で我に返る。「なんだ?」と慌てて聞き返すと、フロウドは申し訳なさそうに微笑んで、
「リズがさ、帰ってこいって。今日俺が夕飯の当番だから」
「あ、あぁ、お前らルームシェアしてんだっけか。相変わらず仲いいなあ…」
「別に、だって幼馴染みだし。仲良いも悪いもないだろ」
じゃ、また明日。
フロウドはそう言ってその場を去った。
「……」
こっちの世界ではフロウドとシルフィーは幼馴染みらしい。
そんな設定聞いてねぇ。


こっちの世界の俺は一体どんな奴だったんだろう。考えたところでわかる訳がないが、顔に絆創膏がないあたり喧嘩はしていないらしい。夏のこの時期はまだあったからな、絆創膏。しかしだからと言ってそんなに俺の人格は変わっていないようだ。喧嘩してないならもっと大人しい奴なのかもしれないけど。そんな奴が突然叫んだらびっくりするか。不良じゃないなら坂城と仲良いのもわかる。昔馴染みだったしな。…坂城と…仲…良いのか……?うっ、考えたら吐き気が…
母さんや父さんには訊きたくない。だって突然息子が「俺って今までどういう奴だった?」なんて言ってみろ。不審な目で見られて最悪フロウドが言ったみたいに病院に行かせられるかもしれない。それだけは避けたい。
だいたい俺には仲良い知り合いが少なすぎるんだよ。いつもの面子はさっき全滅だし。…となると、

「…やっぱり…坂城しかいねぇか…」
ここは腹をくくるしかない。どんな最悪な希望だろうと、拒否るわけにはいかない。
ケータイを開くと藍や雪白達の代わりにクラスメートらしき男子達のアドレスが登録してある。その中にも当然坂城の名前はあった。こっちの俺は普通に友人関係を築いているらしい。

帰路につく。
俺の家、喫茶店ルノワール。
そこだけは変わらないままだった。
「ただいまー」
「あら、遅かったわね一流。おかえり」
母さんが迎えてくれ、夕飯の匂いが俺を包む。
別の世界でも、母さんや父さんがいるこの家は俺の帰る場所なのは、変わらなかった。
「遅かったな、朝義。夕飯はできてるぞ」
「お前が家で当然のように食卓に居座ってる以外はなこのクソ坂城おおおぉぉっ!!」


前言撤回だ。何で家に坂城がいるんだよ。







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