短編 | ナノ

 But , however!

「これ以上近づいたら、人質を殺すからな!」

殺人犯に羽交い締めされて「なんて情熱的な人」と恍惚として呟く幼馴染……居合わせた俺は関係ないと叫びたかった。








――とある女がとある男に恋に落ちた。

これだけの事実だったら、現在の時間で、何組の男女が恋に落ちているだろうし、ありふれた恋の話に、部外者の俺には何も関係ない。

――だがしかし、とある女が「俺の幼馴染」で、とある男が「TVに映った殺人の容疑がかかった指名手配犯」なら。

隣でニュースを見ていた俺は、「この人のまなざしが素敵」とうっとりとして言う幼馴染に「目を覚ませ!」と言いたくなった。なんだって、見ていたニュース番組も、もう少し重要参考資料の写真のチョイスがあったんじゃないかと思う。

TVに映るのは、楽しそうな笑顔で、プールでやっほーいと飛び込みしている殺人犯。高校の卒業式で号泣してる殺人犯。
それを眺めてうっとりと「感情的で、いい人そう」と呟く幼馴染。

――感情的だからこそ、殺人なんか犯したんじゃないか? なんでそんなやつに勘弁してくれ――と俺は言った。幼馴染は聞く耳を持たなかった。頭がいたかった。







――そうして数ヶ月後の今。

冒頭に戻るのだが、恋焦がれた殺人犯の腕に抱かれた幼馴染は、とにかく幸せな笑顔を浮かべている。殺されるかもしれない状況なのに!

俺は、この恋愛喜劇に割って入るべきか? ヒーローが殺人容疑の指名手配犯で、幼馴染はヒロイン? そして……俺は間男役か? 勘弁してくれ!!

傍観者でいたい俺は、一度天を仰いで、がっくりとうなだれた。




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