短編 | ナノ

 煙草の紫煙と、-02

 「りょうきーりょうきぃーいるんだろー」


 「先生、私はりょうきじゃありませんってば」


 貯水タンクから降りて、先生がいる屋上の柵まで近寄る。


 先生は、私を見つけ、にやっと意地の悪い笑みを浮かべ、煙草を持っている手を上げ「よう」と言った。


 「りょうきって名前みたいだよなあ」
「だから、涼しい樹って書いて、すずきですってば」


 何回言っても、先生は私を「りょうき」と言う。


 「りょうき、そろそろ授業出たらどうだ」
「嫌ですよ」


 屋上で私たちは、秘密の共有をしている。


 私は授業を先生にサボっていることがバレ、先生は授業がない時間に煙草を吸っているのが私にバレた。


 お互い、ここが居心地が良いのと、別の誰かに秘密がバレたくない、と意見が一致し、誰にも口外しないことを約束した。


 「先生が煙草止めるなら、授業出ますよ」
「無理な相談だなあ」


 先生は、そう言って、紫煙を吐き出した。


 立ち上っていく紫煙。


 最初、先生が煙草を吸っているのを見てビックリしたけど、いまは、似合うって思う。


 先生と、ここでの密会(?)を重ねるうちに、サボりが楽しくなってしまった。


 先生と話すうちに、先生を知るうちに――……。


 「りょうきは、なんでこの時間サボるんだ?」
「じゃー先生はなんで煙草を吸うんですか」


 質問を質問で返すのはズルいぞ、と言われる。


 「だって美味しいですか、煙草?」
「吸うか?」


 先生は、意地の悪い笑みを浮かべて、煙草を一本差し出す。


 「い、いらないですよ……!」
「その調子だ。麻薬なんか勧められても、そうやって断れ」


 くっくと笑われ、からかわれた! と思う。


 むきになって「やっぱり吸います!」と言う。


 「だーめ」


 サッと先生は煙草の箱をワイシャツの胸ポケットに入れた。


 「吸いますっ それぐらい吸えますってば」
「やーめとけ。吸わないほうが健康のためだ」


 私は、むっ と口を尖らす。


 ボソッと、自分は吸ってるくせに、と呟いた。


 先生と話すうちに、先生を知るうちに――……先生にもっと近づきたくなったから。


 むきになって、子供っぽい態度を取って、かまってもらう。


 私はズルい。


 けど、先生もズルい。


 そんな、生徒の誰にも見せないような顔を私に見せるから――……。


 「……、」


 すると、先生が私の腕をつかんで、引いた。


 「っ?」
「そんなに吸いたいなら、」


 吸わせてやるよ、と言われた時、先生の綺麗な顔が目の前にあって。


 先生は、いつになく真剣な顔をしていた気がする。


 気がする、って言うのは、そのあとキスされたから、覚えてない。


 「……っ!?」


 ビックリして、身体が固まった。


 ちゅ、とリップ音がして、先生の唇が離れていった。


 キスってこう、もっと甘いものだと思った。



 だ、け、ど、!



 「に、が、っ!」
「にげえだろ」



 私は、うえーと色気のない声を出して、唇を押さえた。


 先生は、ケラケラ笑って私を見ている。


 苦かったのは、先生がキスをしたあと、溜めていた煙草の煙を吐き出したからだ。


 「なにするんですか!」
「吸いたかったんだろ?」
「ですけど……っ!」


 正直、私はテンパっていた。


 先生にキスされた。


 先生、どうしてですか?


 いつものように、からかっているんですか?



 先生、教えてください。



 それから先生は、いつものように煙草を二、三本吸って、「ああ、もうこんな時間か」と時計を確認して、携帯用灰皿に煙草を押し付けた。


 その間、私は、終始無言だった。


 「……、じゃあな」


 そう言って、私に背を向けて、屋上を去ろうとする先生。


 私はその背中に呼び掛けた。


 「先生! 来週もここに来ますよね?」


 今までそんな確認していなかった。


 けど、「じゃあな」って言葉が頭に響いて……。


 先生が、もう、ここに来ないんじゃないかって……。


 先生はひらひらと手を振って答えた。


 やっぱり、先生はズルい。


 期待を持たせるような、曖昧な答え。


 それでも、私は。


 ――……来週も、貯水タンクの上で先生を待ち、先生の煙草の紫煙が立ち上った時。



 どうしようもなく、嬉しくなるんだろう。








屋上と私
(ふぁーすときす、だったのに)












2011/8/18 騎亜羅



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