短編 | ナノ

 安部くんを笑うんじゃねぇ!

家族みんなワタシを祖父似だと言う。異常なほど好奇心旺盛で行動力があるのに、熱しやすく冷めやすい。内面はそれなのに、性格は誰よりも冷めている。おじいちゃんそっくり。気分屋さんねって言う。祖父は早くに亡くなってしまったけど、その話を聞くたび亡くなった祖父に想いを馳せる。


だってワタシのこの複雑な性格を理解してくれるかもしれない唯一の人だったから。…でも同じ性格だったら同族嫌悪になっていたかもしれない。


複雑な性格は取り巻く環境をつまらなくさせた。何に興味を持ってもすぐに飽きちゃうし、出来なかったことは極めようとして飽きるし、それだから妙に器用で、人間関係も悪くない。


一度わざと一人になってみたものの、いじめられてた子につきまとわれて上手くいかなかったし。



だから、今がつまんないな、なんて贅沢な悩みを抱えている。



「……て欲しいです」
「それはこちらで検討します」
「はい……」



今は生徒会総会。生徒の意見や質問に生徒会や委員会が答える場。勿論、学校に興味がない大半の生徒は寝ている。ワタシはボーッと成り行きを見ていた。


そして様相が変わったのは、総会議事録番号No.6−委員会への要望の時。三年生のある生徒が何度も何度も席と体育館に設けられた中央、質問場を行き来し質問を繰り返す。


「……を……に……」
「――生徒会」
「はい。それはすみませんでした。次にいかせるよう――」


眠っていた大半の生徒が変わった空気に気づき、顔を上げ始める。



クスクス……。また? 何回質問するの? クスクス……。



再度質問に回る生徒にドッと回りが引いたり、クスクス笑い出す。ワタシは、あの先輩可哀想だなぁ、と思う。一応クラス代表で質問してるだけなのに、こんな仕打ちを受けて。


議長が「静かにしてください」と声を張った。もちろん、その場では静かになる。でも、三年生の先輩が前に出た途端、クスクスと笑い声や話し声が浮上する。


くだらないな、つまんないな――心の内がドンドン冷めていき、半目で場を見守る。ドヘタな茶番劇なんて見たくもない。



そう思った時だった――……。




ダンッ!!




「テメェらうっせぇんだよッ!!安部くんを笑うんじゃねぇ!」


三年生の列の一番端っこ。ある生徒が大きな音を立てて立ち上がり、そう叫んだ。


「……わ」


思わず、目がその先輩を追った。


先輩は体育館ステージ前……つまりは生徒の一番前までに行き、また叫んだ。


「マジウゼェ!!」


ダンッ!!


「安部くん笑ってんじゃねぇよ!!」


威嚇するように足で大きな音を出し、吐き捨てるように「クソがッ」と体育館を走り去った。


その場は騒然。唖然。呆気に取られて誰もが身動きをとれなかった。



そして、ワタシは。



「わ、わ、わー……」


――感動していた。


こんなドラマみたいなことってホントに起こるんだ! あの先輩誰!? つーか庇われた安部くん追いかけようよ! ぽかーんとしてないでさ!


胸が熱くなりどうしようなくドキドキする。感動で頬が紅潮する。頭が興奮してイカれたみたいにくらくらした。



だって、こんなに楽しいことってある!?



「追いかけよ……っ」


場は興奮の熱や呆気に取られて静まらない。そのうちに、近くにいた先生に具合が悪いと告げた。――いま追いかけないと後悔する。楽しいことは逃しちゃいけないよね?おじいちゃん!


担任に一人で大丈夫だと告げ、しばらく歩き……走り出し、



「待って待って!ねぇ、そこの先輩!」



――ワタシは満面の笑みで楽しみを捕まえた。










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