◎ 06
だが、「まあ、見てれば分かる」と軽くかわされ、注目のレースが始まってしまう。
私たちが見ている場所は、スタートのレーンと逆側にある。下のコースに近い位置を陣取っていた。
コースは、陸上競技場を思い浮かべてほしい。楕円形の、客席もそれに合わせて作られている、ぐるっとした形だ。馬……この場合、エリザベスクイーンだが、その彼女(彼? クイーンだから、彼女だと思う)が、走って通過していく位置。二周走るから、ゴールは見えないでも、圧巻の走りを見ることが出来る。
彼は、双眼鏡を使ってスタートシーンから見ていたが、私は目の前を通過するのだから、別に良いや、とその場からエリザベスクイーンに注目する。
これは、競争ではないのだろうか?
何のためにエリザベスクイーンは、走っているのだろう?
そう疑問に思いながら、猛スピードで走ってくるエリザベスクイーンを見つめた。
「いいぞ、いいぞ、エリぃ!」
彼は、双眼鏡を握りしめながら、徐々に近づいてくるエリザベスクイーンに興奮し始める。何が楽しいの、と呆れて思いながら――……エリザベスクイーンの騎手がおかしいことに気付く。
「……?」
背中に何か、繋いでいる。遠くてよく見えないが、繋いでいる先には、細長い白い布……いや、何か文字が書いてある。
そして、エリザベスクイーンが私たちの前を通過する瞬間、ぎゅ、と。
隣にいる彼に手を握られ、囁かれる。
「紗知、ちゃんと見てろよ」
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