03


「――で、ご飯を一緒に食べるってときは冷蔵庫に張ってある名札磁石を表……名前の方を朝まで出しておく。急に食えないってときは連絡してくれ」
「分かりました」

櫂木荘の食事は小虎が作っているが、一人で食べたい人や自分で食べたい人……様々がいるから、冷蔵庫に名札が張ってある。それを、朝食を食べる人は夜に名札を表にし、夕食を食べる人は朝にまた名札を表にする、という仕組みを取っている。
昼は各自だが、小虎に言えばお弁当を作ってもらえる。
今はこれがほとんど表になっているし、小虎はたまに「これが食べたい」ってリクエストも張ってある、と由季に話すと「えっと……山月さんがご飯作ってるんですか?」と聞かれた。

「そうだけど? 俺、ここで働いてるから」
「す、すごいですね……!」
「そうでもねえって」

由季に尊敬の眼差しで見られ、小虎は照れまじりに頭をかく。

「月も料理上手なんですよ! すごく美味しくて」
「それは由季のために作っているからな」
「ゆ、月! そういう言い方やめてよ……!」
「あんたら二人の会話、それがテンプレなのかよ……」

すでに説明する間、何度か行われたやりとりにげっそりだ。月は平然と由季を口説き、色恋沙汰に免疫がないのか由季は毎回のように顔を赤くしている。月は蕩けるような笑みで、そんな由季を見ている……というのが常らしい。
ちなみに「付き合ってる?」と聞いたら、由季が真っ赤な顔で「幼馴染ですっ!」と全否定した。月は「まだ、幼馴染なだけだ」と余裕たっぷりに言い直してくれたが、そんなの当事者以外にはどうでも良い事情で「もう付き合えよお前ら」と小虎は心の中で思った。

「これで説明は終わり。ちょっと変わってるけど、みんないいやつだから、仲良くしてくれよ」
「はい!」

小虎はちょっとじゃないけど……と思いながら由季の素直な反応に嬉しくなる。

「変ってああいうこと?」

だが、澪が指さした先で嬉しさが半減した。

「月くん、メアド交換しない? 主に、どうしてそんなに好き好きオーラを出して彼女を口説けるかについて話したいわ」
「由季は私のものだから、とだけ言っておこう」
「その自信はどこからくるのかしら? 結婚したいくらい好きなんだけど、一行に振り向いてくれないの」
「日本では良く言うようだが、好きな人は胃袋で掴め、とそこからなんじゃないか」
「もう掴まれてるわ。本当に美味しいもの」

ああ……うん……ああいうの。

小虎は、月に恋愛指南をお願いする千百合を遠い目で見る。


「私も由季の胃袋は掴んでいるしな?」
「だ、だから月!」
「あはは、面白いね」


また惚気始めた月に否定する由季の真っ赤な顔、そして含み笑いすべてを知っているような澪の目――櫂木荘に新しい住人のやりとりが増えた。




END




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