06

――はっきり言って、少し、ほんの少し……彼女が「楽しそうだな、先輩!」などと騒いでくれることを期待した。有耶無耶にするにはそれが一番だからだ。


だから、まさか彼女が――


「……ふっ……そんな…あんまりだ……っわたしでは物足りないというのか、先輩…!」


「泣く」とは思わなかった。


「たしかに恥じらいがないのは承知、っして、る……っでも、そんな、ぺったんこにまけるのは解せない…ぅうっ……ふっ…わたしのほうが、まんぞくさせてやれるのに……っ」


彼女はさらっと奥方の胸を小さいと言う。それと、変態性で張り合ってもお前に勝てるやつはいないから。でも、俺は動揺して動けなかった。彼女が泣く姿なんて、俺たちが出会ったキッカケ――失恋したと城の片隅で泣いていたとき以来だ。


「俺の妻を愚弄するな、変態!斬る……っ」
「やってみろ……っ変態の名にかけて返り討ちにする……っ」


剣を抜いたカズマに応戦する彼女。勇ましいが、そこは変態の名をかけなくても。


「だいたい……きみもわるい!姫君をつかまえておかないから!」
「は……飽きられた変態が生意気なことを言うな」
「うっ……るさい!×××で×××なきさまにえらそうなことをいわれたくない!」


放送禁止用語を平然と言い切った彼女に呆れる。それに、安定のカズマにどこかホッとし、奥方の手をそっと外す。


「かずまさ…しない、んですか…?」
「ああ。俺はムネマサだ。奥方――求められて嫌なことなんてない。ありのまま、カズマに想いを伝えれば良い」
「……?」


そう言って立ち上がると、一触即発の二人に向かう。


「なんだと……っお前はムネマサに強要しすぎだ」
「そ……っれは……」
「そう思っているのだろう?恥じらいのない、変態め」
「くっ……こんなときでも罵りに感じてしまう自分がにくい……っ」


そこは感じるなよ、とツッコミながらカズマに言う。


「カズマ、俺の妻をいじめないでくれないか」
「ムネマサ」
「奥方に事故でも、触れたのは謝る」
「ふれた……だと?」


あ、間違った。


「違う。事故で襲うような形になって」
「お前……っ」


話聞けよ。説明って難しい。


「事故で覆いかぶさったことは謝る」
「許せん」
「許せ。事故だったんだ。それに、かくかくしかじかで」
「……待て。どういうことだ」


薬のことを話すと血相を変え(酔いもすっかり醒めた様子だ)部屋を飛び出した。女王に直談判でも行く気か。去り際に「この城の女は…!」とか聞こえた気がするけど、気にしないでおこう。


ソファに残された奥方はまた寝入ってしまった。元々、ここは二人のためにあてられた客室だしこのままにしても大丈夫だろう。問題は――と振り向いたとき、腕を引かれ無理矢理客室を後にした。




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